第26回 気管挿管 ~挿管ならまかせて。えっへん~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はせん妄について一緒に勉強しました。
本日は気管挿管について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① 挿管の適応
② 挿管時の麻酔
③ 鎮静薬、筋弛緩薬は何を選択するのがよいか?
④ 挿管後の鎮痛
⑤ 挿管後の鎮静
⑥ 鎮痛薬や鎮静薬の投与量の調節方法
救急の先生にとって気管挿管はかなり馴染みのある手技であるかと思います。ただ、病棟管理を行っている先生方にとって挿管はそうそうある手技ではありません。ただ、気管挿管は急に求められる手技であり、医師としてすぐに対応できるものでなくてはいけません。今回は気管挿管について一緒に学んでいきましょう。
第26回 気管挿管 ~挿管ならまかせて。えっへん~
本文内容は主に『集中治療 ここだけの話』田中竜馬編を参考に記載しています。こちらは、ICUなどの集中治療室で使える知識を丁寧に解説している良本だと思います。もしよろしければ購入して読んでみてください。
① 挿管の適応
まずは適応からみていきましょう。
挿管の適応(「研修医手技マニュアル 第2版より」
酸素化、換気の確保が必要な場合
気道の維持、保護が必要な場合:上気道閉塞、気道熱傷など
陽圧換気が必要な場合:フレイルチェストなど
気道の洗浄(吸引)が必要な場合:重症肺炎、誤嚥
上記病態に発展する可能性がある場合
② 挿管時の麻酔
挿管のときには麻酔を使うでしょうか。実際に挿管時に麻酔を使うか否かについて以下に記します。
RSI(rapid sequence intubation:筋弛緩薬、鎮静薬を用いた挿管)か、Non RSIかの選択ですが、殆どの場合はRSIで挿管を行うことが多いと思います。ですので、どのようなときにNon RSIを用いるかをまず、考えていきましょう。Non RSIの利点は自発呼吸を残したままであるため、バッグマスク換気を行う必要がない点です。リドカインスプレーで口腔内、喉頭、気管を局所麻酔し、直接喉頭鏡、ビデオ喉頭鏡、ファイバーで喉頭を観察できます。患者の自発呼吸が消失した場合に適応があると考えられます。特に換気困難のリスクが高くなる気道異物、喉頭蓋炎、腫瘍や外傷で上気道の解剖的異常が疑われる症例で良い適応となります。
③ 鎮静薬、筋弛緩薬は何を選択するのがよいか?
プロポフォールは作用時間までの時間が非常に短くRSIに向くが血圧が低下している患者には注意を要します。ミダゾラムは循環抑制作用がプロポフォールほど強くないです。ベンゾジアゼピン系薬剤の中では比較的短時間で作用するものの、プロポフォールに比べれば長いです。
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投与量 |
作用発現時間/持続時間 |
注意点 |
1.5 mg/kg |
15~45秒/5~10分 |
低血圧 |
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0.2-0.3 mg/kg |
60~90秒/15~30分 |
Onsetがやや長い ベンゾジアゼピン系薬剤やアルコールで耐性 |
筋弛緩薬は作用発現までの時間が短く、作用時間が短いときに使用されます。
ロクロニウムは禁忌の少ない非脱分極型筋弛緩薬であるが、作用発現までの時間と作用持続時間が短いため救急、集中治療領域でのRSIでは最も使いやすい筋弛緩薬と言えます。
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投与量 |
作用発現時間/持続時間 |
注意点 |
ロクロニウム |
1.2 mg/kg |
60秒/40~60分 |
低血圧 |
④ 挿管後の鎮痛
ポイントはフェンタニル+プロポフォールもしくはデクスメデトミジンを基本とし、投与量はプロトコルに沿って目標鎮静深度となるように調整すします。
痛みの評価はVAS、NRSのどちらかを用いて行い3以上であれば介入を行う。自己申告できない場合はBPSもしくはCPOTが信頼性および妥当性において良い評価を得ています。
BPS, CPOT HP参照 https://www.kango-roo.com/sn/k/view/5589
BPS(behavioral pain scale)
項目 |
説明 |
スコア |
表情 |
穏やかな |
1 |
一部硬い(たとえば,眉が下がっている) |
2 |
|
全く硬い(たとえば,まぶたを閉じている) |
3 |
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しかめ面 |
4 |
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上肢の動き |
全く動かない |
1 |
一部曲げている |
2 |
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指を曲げて完全に曲げている |
3 |
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ずっと引っ込めている |
4 |
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人工呼吸器との同調性 |
同調している |
1 |
ときに咳嗽 大部分は呼吸器に同調している |
2 |
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呼吸器とファイティング |
3 |
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呼吸器との調節がきかない |
4 |
鎮痛は安定して副作用の少ないものが理想的であるためフェンタニルが頻用されます。モルヒネはヒスタミン遊離作用や腎機能低下児の効果遷延に注意が必要です。
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レミフェンタニル |
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静注での投与量(初回) |
1-2 ug/kg |
0.1-0.2 mg/kg |
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効果発現までの時間 |
1分未満 |
1-2分 |
1分 |
効果持続時間 |
0.5-1時間 |
1-2時間 |
3-4分 |
腎機能低下児の排泄遅延 |
なし |
あり |
なし |
持続静注量 |
0.5-2 ug/kg/時 |
1-10 mg/kg/時 |
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特徴的な注意点 |
筋強直(>5ug/kg) |
ヒスタミン遊離作用 |
我が国ではICUでの使用は未承認 |
⑤ 挿管後の鎮静
鎮静の評価
鎮静深度の評価するツールとしてSASやRASSを推奨しています。
RAS :http://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/yc01-2.pdf
よく用いられる鎮静薬
ミダゾラム、プロポフォール、デクスメデトミジンが広く使用される。
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デクスメデトミジン |
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メカニズム |
GABAAアゴニスト |
GABAAアゴニスト |
α2アゴニスト |
静注での投与量(初回) |
0.1-0.3 mg/kg |
1-2 mg/kg |
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効果発現までの時間 |
1-3分 |
1分未満 |
ローディングしない場合30分以上 |
効果持続時間 |
1-3時間 |
5-10分 |
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腎機能低下児の排泄遅延 |
あり |
なし |
あり |
持続静注量 |
0.04-0.2 ug/kg/時 |
0.3-3 mg/kg/時 |
0.2-0.7 mcg/kg/時 |
呼吸抑制 |
あり |
なし |
比較的少ない |
特徴的な注意点 |
せん妄のリスク、離脱症状、連用で耐性ができる |
徐脈血圧低下 プロポフォール注入症候群 卵・大豆アレルギー |
ローディングすると徐脈や血圧低下がおこりやすい |
⑥ 鎮痛薬や鎮静薬の投与量の調節方法
深い鎮静は人工呼吸期間や在院日数の延長だけでなく、せん妄や記憶障害のリスクとなり長期予後も悪化させうります。そこで鎮静を浅くする方法としてDSI(毎日の鎮静中断)が提唱されました。しかし、検証では深い鎮静深度にされていた点は留意したいです。そこで、独自のプロトコルを各施設で作成し、浅い鎮静プロトコルを実践している施設も散見されます。
例)神戸中央病院(神戸市北区)集中治療室
https://www.kango-roo.com/sn/a/view/3862
いかがだったでしょうか。次回はICUにおける循環管理の勉強をしたいと考えています。