第21回 オンコロジック・エマージェンシー ~どう対応すればいいの?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は女性の腫瘍について勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日はオンコロジック・エマージェンシーについて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 緊急で対応しなければならない病態

 ② 悪性腫瘍による脊髄圧迫(MSCC:Malignant spinal cord compression)

 ③ 上大静脈症候群

 ④ 高Ca血症の鑑別として悪性腫瘍を疑う

 ⑤ 腫瘍崩壊症候群(TLS)

  皆さん、担癌患者のトラブルは対応できるでしょうか。腫瘍の患者さんが来ると少し敬遠したくなるというあなた。あなただけではありません。実は私も苦手なので、勉強したくて今回はオンコロジック・エマージェンシーをテーマに選びました。一緒に学んでいきましょう。

 

21回 オンコロジック・エマージェンシー ~どう対応すればいいの?~

 

 以下は『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院内科チーフレジデント編)』をもとに記載しています。病棟管理の教科書はあまりないので、病棟管理について勉強したいけど何を勉強したら良いだろうと思う方は、この本をとっかかりに勉強すると良いと思います。

 

① 緊急で対応しなければならない病態

 がんの症状は基本的に緩徐に進行しますが、緊急で対応しなければならない病態が下記の3つです。

 1,構造上の問題:脊髄圧迫、上大静脈症候群など腫瘍による閉塞、破綻による病態

 2,代謝性の問題:高Ca血症、腫瘍崩壊症候群など腫瘍の賛成する物質による病態

 3,治療関連合併症:発熱性好中球減少症(FN)、infusion reactionなど、治療に関連した病態

 それぞれ勉強してみましょう。

 

② 悪性腫瘍による脊髄圧迫(MSCC:Malignant spinal cord compression

 脊髄圧迫は、腫瘍患者の5-10%程度に起こり、脊髄圧迫の20%が癌の初発症状として起こります。癌の種類としては肺癌、乳癌、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫前立腺がんなどのいわゆる骨転移をする癌に多いです。症状は疼痛と下肢の運動神経、感覚神経症状を示します。そのまま見逃し、無治療でいると神経症状は不可逆となる場合もあるため、緊急度が高いです。

 診断のゴールデンスタンダードはMRIです。機械弁やペースメーカーで使用できなければCTミエログラフィーを行います。治療はステロイド放射線照射、脊椎手術を考慮します。救急対応としては迅速にステロイドを開始することで脊髄の浮腫を改善し血流低下による障害を抑制します。

  デキサメタゾン 8-16 mg+生理食塩水50mLを点滴静注

 

③ 上大静脈症候群

 腫瘍性によるものや、血栓性によるものが増えてきている。癌腫は肺癌(特に扁平上皮癌、小細胞癌)、リンパ腫、胸腺腫、胚細胞腫瘍が多いです。肺癌と縦隔腫瘍といった感じですね。症状としては呼吸困難、頸静脈怒張、顔面腫脹、胸壁表在静脈怒張、咳嗽、顔面浮腫、上肢腫脹、チアノーゼなどです。完全閉塞になるまでの期間が短いと、症状は強くなります。診断は、造影CTで上大静脈の閉塞所見を認めることです。治療は癌腫やStageによって異なります。まずは安静と酸素投与を開始してください。診断がついていない場合は放射線療法は、診断をつけてから放射線療法を開始してください。放射線療法は効く種類の癌が多いため診断ができなくなってしまう可能性があるためです。

 

④ 高Ca血症の鑑別として悪性腫瘍を疑う

 悪性腫瘍による高Ca血症は癌患者の20~30%に随伴するそうです。原因としては4つに分類されます。

1,腫瘍随伴性体液性高Ca血症(HHM

悪性腫瘍による高Ca血症の原因として最も多く80を占めます。腫瘍によるPTHrPの産生によるCaの上昇ですが、肺、頭頸部がんなどの扁平上皮癌や腎細胞癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌などに多いが、非ホジキンリンパ腫慢性骨髄性白血病の急性転化、成人T細胞白血病/リンパ腫などでもみられる。腫瘍が勝手に甲状腺類似ホルモンを作って出しているといったイメージです。

2,局所骨融解性高Ca血症(LOH

 悪性腫瘍による高Ca血症の20を占めます。固形腫瘍の骨転移や多発性骨髄腫でみられます。局所でサイトカインなどを放出することで破骨細胞の活性化が機序と考えられています。腫瘍の転移先で局所的に骨を溶かすサイトカインを出しているというイメージです。

3,1, 25ジヒドロキシ日ラミンD(1, 25D

 頻度は低いです。ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫の約1/3が高Ca血症になると言われています。腫瘍細胞によるPTH非依存性の1, 25D産生が起こると言われています。つまり、腎臓外で勝手に1, 25D産生(ビタミンD活性化)が起こっているイメージです。

4,異所性PTH産生腫瘍

 まれですが、異所性に本物のPTHを作る腫瘍ができた場合です。卵巣癌、肺癌などで起きます。PTHrPではなく、本物のPTHというところが1との違いです。

 まとめると、PTHの似たような物質(PTHrP)を作るか、局所的に骨を溶かすか、VitD活性化するか、PTHを作るかのどれかということです。生理学で覚えたのを分けた感じだということがわかりますね。

  • ホルモン値による鑑別の仕方

 以下のHPに詳しい記載があります。ご一読を。特に表2は参考になると思います。

 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/canceruptodate/utd/201310/533643.html

治療

 治療の基本は以下の6つです。

1,補液    

  生理食塩水 200-300 ml/hrで開始。尿量を100 ml/hr以上に保つ。希釈してジャバジャバ尿に流してしまいましょう。

2,カルシトニン

 40U 12時間ごと筋注または生理食塩水50-100 mLに溶かして1~2時間かけて投与する。24時間以上の連続使用でレセプターの発現低下が期待できるそうです。

3,ビスホスホネート

 ゾレドロン酸(ゾメタ) 4mg生理食塩水 100mLに溶いて15分かけて点滴静注。再投与は少なくとも1週間開ける。顎骨壊死に関しては短期的に高Ca血症に対して用いる場合は問題となることは少ないとのことです。骨吸収を抑制し高Ca血症を抑制する力は強いが、効果発現に2~4日必要とのことです。腎機能低下例には用量を調節する必要があります。ただ、減量基準に関しては添付文書に詳細が書かれていないです。

 4,その他ステロイド

 PSL 20-40 mg/で活性化単核球の働きを抑えることで1, 25 Dの産生を抑制します。

5,血液透析

 非常に高度の高Ca血症(Ca 18-20 mg/dL)で、腎不全や心不全のために生理食塩水の大量点滴が安全に行えない症例には、カルシウムをほとんどまたはまったく含まない透析液を用いた血液透析を考慮すべきであるが、最終手段として考えておく。

6,デノスマブ

 骨転移を有する患者では考慮されるが、日本では高カルシウム血症に対して未承認とのことです。

 

⑤ 腫瘍崩壊症候群(TLS)

 大量の腫瘍細胞が短時間で崩壊し、細胞内物質、代謝産物が血液内に流入し、生体の排泄能超え蓄積することで臓器障害をきたす病態を言います。尿酸値の上昇、K上昇、P上昇、Ca低下、急性腎不全、致死的不整脈、けいれんがみられます。腫瘍細胞が多く、治療に感受性の高い腫瘍が生じやすい。起こしやすい腫瘍としては、AML、ALL、CLLCML悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、固形癌です。

 

Clinical TLSガイドラインが出ています。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r8d.pdf

 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/canceruptodate/utd/201310/533642.html

 

Laboratory TLS ガイドライン

元素 血中測定値 基準値からの変化

尿酸                 476μmol/L 以上、または 8mg/dL 以上                     25%増加

カリウム          6.0mmol/L 以上、または 6.0mg/dL 以上                  25%増加

リン酸             2.1mmol/L 以上(小児),1.45mmol/L 以上 (成人)        25%増加

カルシウム      1.75mmol/L 以下                                                       25%低

 

Clinical TLS ガイドライン

合併症

0

1

2

3

4

5

クレアチニン

1.5倍以下

1.5

1.5-3.0

3.0-6.0

6.0以上

死亡

心臓不整脈

なし

処置不要

薬物療法
(緊急性なし)

症状あり
(薬物療法 、除細動では不十分)

重篤

死亡

けいれん

なし

なし

短時間
一過性

意識低下

長時間
反復性
(コントロール不良)

死亡

治療

 補液と尿量、高尿酸血症電解質異常のコントロールが大切です。

 補液は2000~3000 mL/、尿量 80~100 mL/日、尿比重1.010を目安に維持します。カリウム、リン排泄と尿希釈により尿酸結晶の析出を抑制します。利尿薬は急激に血行動態を変化させ、腎機能悪化をきたす可能性があるので、ルーチンには使用せず体液量尿量を総合して考えるようにしましょう。

 5%デキストロース1/4生理食塩水 2-3L/m2/日(体重10 kg以下の幼児には200 mL/kg/日) 点滴 

 アロプリノール、フェブキソスタットはキサンチンオキシダーゼ阻害をすることでキサンチンの尿酸への転換を抑制することで尿酸産生を抑制します。

 allopurinol 200-300 mg/分2または分3

 ラスプリカーゼはウリカーゼで霊長類に存在しない尿酸代謝酵素ウリカーゼの一種です。治療不応の高尿酸血症や硬度の高尿酸血症が予想される場合には投与を検討します。

    rasburicase 0.2 mg/kgを生理食塩水50 mLに希釈して化学療法開始前24時間から4時間前までの間に1日1回30分以上かけて点滴(最大7日間使用できる)

 電解質の異常はリンの上昇とリン酸カルシウムの形成による低カルシウム血症が起こります。リン上昇に関してはリン結合ポリマーを投与します。

   炭酸ランタンは,500~1000mgを1日3回,食事とともに服用する。

 

いかがだったでしょうか。少しはオンコロジック・エマージェンシーに対する知識が深まったでしょうか。次回は、入院患者の病棟管理ということで不眠に関して勉強したいと思っています。