第61回 頭痛 ~危険な痛みを見逃すな!~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。痛みについて一緒に勉強しました。

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 本日も症候学で、頭痛について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① SAHは難しい

 ② 警告出血がさらに診断を難しくする

 ③ 眠りから覚めてしまう頭痛

 ④ 雷鳴様頭痛

   1,RCVS(可逆性脳血管攣縮症)

   2,静脈洞血栓症

   3,頸部動脈解離

   4、その他の雷鳴頭痛

 

 救急外来で頭痛はむずかしいです。頭痛と言われてすぐに除外したいのが頭の中の病期ですね。しかし、それらの病期には多くのピットフォールがあります。今回は除外したいけどピットフォールを知っておかなければならない疾患について勉強してみましょう。

 

61回 頭痛 ~危険な痛みを見逃すな!~

 

本文内容は主に『Dr. 林の当直裏御法度 ER問題解決の極上 Tips90』を参考に記載しています。もちろんみなさんもご存じの方がほとんどと思いますDr. 林の名著ですね。研修医の先生はぜひ手にとってみてください。

Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips90 第2版

Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips90 第2版

 

① SAHは難しい

 SAHにおいて突然の頭痛の早さは実はあまり感度は高くないとのこと(感度58%。1分間以内でも感度50%程度で役に立たない。ただし、頭痛がピークになるまでに1時間以上かかった場合はSAHは否定的なのだそうだ。頭痛が起きた時は何をしていましたか?と聞いてなにか具体的なことを答えた時は突発的とわかります。まずは急な頭痛かどうか確認し、その後、すかさず『ちなみにその時何をしてましたか』と尋ねるのがスムーズですね。

 SAHは血管が裂ける時は耐え難い痛みを感じるそうですが、その後出血が止まれば痛みが引いてしまうことがあります。ですので、発症時滅茶苦茶痛ければ必ずCTを取りましょう。また、人生最大の頭痛と言われてSAHしかないと思ってCTとってもSAHが見つかるのは1割弱だそうです。CTを10回撮って1回当たれば良いと考えておきましょう。あと後頚部痛はSAHでLR4.1と要注意です。

 SAHの6時間ルールとは、発症6時間以内のCTはさすがSAHの感度・特異度ともほぼ100であるが、読影者は放射線科医に限るとのこと。ただし6時間をすぎると感度は85%程度と考えておく。そこで腰椎穿刺と言いたいとこだが、12時間以降でないと陽性にならないのだそうです。

 

② 警告出血がさらに診断を難しくする

 SAHの10~40%に警告出血が先行し、SAH発症の2~8週間前に起こると言われています。これを頭痛の既往歴があるからと放置するとかなりまずい。警告出血は比較的強い頭痛で、数時間~数日持続する。また眼科部に針をさすような痛みを訴えた(警告出血)後、動脈神経麻痺を疑い、これをトルサーハント症候群と誤診しSAHに至ったケースもある。

 

③ 眠りから覚めてしまう頭痛

 Dr林は4Sとして覚えるように言っています。

 SAH/Stroke:クモ膜下出血、脳血管障害

  SAS睡眠時無呼吸症候群 (Sleep apnea syndrome)

  Seizure:てんかん発作:睡眠誘発のてんかんが起きて目覚めると頭痛がひどい

  SOL:脳腫瘍。外になると脳圧が上がるので、頭痛で寝ていられなくなる

 

④ 雷鳴様頭痛

 雷鳴様頭痛の定義は頭痛が始まってからピークになるのが5分以内のものをいいます。SAHでは6~9分後にピークになるものが多いそうです。

雷鳴様頭痛の鑑別診断

 クモ膜下出血、静脈洞血栓症、頸部動脈解離、下垂体卒中、RCVS、PRESENTS、高血圧緊急症、第三脳室コロイド嚢胞、特発性髄圧低下症、斜台部血腫。頭蓋内感染症、偽性脳腫瘍、一次性雷鳴頭痛、一次性咳嗽性頭痛、一次性労作性頭痛、性行為に伴う一次性頭痛

1,RCVS(可逆性脳血管攣縮症)

 実は数日~数週に渡って繰り返す雷鳴様頭痛で最も多い原因がRCVSです。20~50歳代女性に多く、頭痛の平均持続時間は30分で90%は両側性です。嘔気・嘔吐、視力障害などを伴います。頭痛は平均17日で消失するとのこと。誘因トリガーとして、入浴、労作、性行為、SSRIなどのセロトニン作動薬、妊娠、産褥期、片頭痛の既往などがあり、入浴関連頭痛もRCVSの一つです。入浴するたびに雷にうたれるような頭痛が出るって言われるとRCVSも鑑別に上がります。

2,静脈洞血栓症

 50歳以下の女性に多く、平均39歳。数日から数週にかけた頭痛の発症が多く、雷鳴頭痛は2.4~14%のみ。血栓ができやすい患者がハイリスクだが、忘れてはならないのは妊婦や産褥婦です。出産後4週まではリスクが高く神経所見がないからといって除外してはいけない。他のリスクは経口避妊薬、手術・外傷、抗リン脂質抗体症候群、悪性腫瘍、ホルモン療法などです。MRIでは動脈分布とは無関係の脳浮腫を認めるだけなので、MRVで両側の出血や浮腫を認めたら静脈洞の精査を必ず行います

3,頸部動脈解離

 外傷、結合織疾患、妊娠、産褥期、血管炎などが原因になり頸動脈解離(椎骨動脈、内頸動脈)が発症する。比較的30~50歳代の若年に多く、65歳以上にまれ。

椎骨動脈解離で雷鳴用頭痛になるのはたった20%程度、後頭部・後頚部痛が多い。解離して狭くなったところに血栓ができ、それが飛んで詰まって神経症状を出します。小脳失調や回転性めまい+後頭部・後頚部痛を見たら必ず椎骨動脈解離を疑う。特に小脳脳幹症状のTIAを繰り返すと疑い強くなります。

4、その他の雷鳴頭痛

・偽性粘液腫

 肥満の若年女性に多いが、思春期以外は男女ともに発症します。頭痛に伴い70%において視野が不明瞭になります。拍動性の耳鳴を60%で訴えます。眼底検査で乳頭浮腫や静脈の拍動がなくなります。視力回復が治療目標となります。

・第三脳室コロイド嚢胞

 モンロー孔近位にできる嚢胞でゼラチン様粘液が詰まっている。20~60祭男性に多いです。モンロー孔を閉塞すると水頭症になって頭痛を来すことがあります。頭の向きで塞ぎ方が変わり頭痛を生じることもあります。

・下垂体卒中

 良性下垂体腫瘍が大きくなり腫瘍内出血を来すと、激しい頭痛や視野障害を来します。

 

# 下垂体卒中についてもう少し

 下垂体卒中の症候は神経症候と内分泌症候に分けられ、それぞれを同時に評価する必要があります。神経症校としては急激なづつが最も多く(95%)、意識障害は5%に見られます。下垂体卒中による腫瘍体積の急激な増大により、視神経障害や海綿静脈洞症候群を来すことがあり、視力低下が52%、視野障害が64%、複視が78%で見られます。眼球運動障害の50%が動眼神経麻痺によります。梗塞型と比べ出血型のほうが一般的に症状が重篤です。

 内分泌症候に関しては、約80%で下垂体前葉ホルモン分泌機能低下が認められ、ACTH分泌低下が70%、TSH分泌低下が50%、ゴナドトロピン分泌低下が75%で合併するとされています。下垂体卒中に伴い、福神機能不全やSIADHによる低Na血症が40%に見られますPRLまで低下している症例では手術を行っても下垂体機能は回復が困難です。高揚障害の尿崩症を呈することは少ないです。

 内分泌症候として最も問題となるのが続発性急性副腎不全で、下垂体卒中を診断し、血行動態が不安定な場合には副腎不全を合併しているものと想定し、速やかにステロイド補充を行います。ただし、ステロイドを投与するとACTH及びコルチゾールの評価が困難となるため、ステロイド投与前に評価のための採血を行う必要があります。ホルモンの測定には通常時間がかかるため、結果を待たずステロイドの投与の必要があります。

(成人病と生活習慣病 (1347-0418)48巻10号 Page1120-1124(2018.10))

 

次回は『頭痛』の勉強を行います。