第12回 しびれの救急対応 ~しびれ軽症かな?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は呼吸困難について一緒に勉強しましたね。

med-dis.hatenablog.com

本日はしびれについて一緒に勉強していきましょう。

 

勉強前のチェック

 ① しびれの問診は?

 ② しびれの診察は?

 ③ しびれの疫学は?

    ④ しびれは感覚の異常か、それ以外か、まず分ける

 ⑤ 他覚的感覚障害があるかを調べる

 ⑥ 感覚障害の分布は単発性か、多発性かで鑑別する

 ⑦ 多発性の場合、分布は対称性か非対称性かで分類する

 ⑧ 精神的要因によるしびれとは?

 ⑨ しびれの治療薬は?

救急でしびれの患者はよく見る症候だと思います。しかし、しびれと言われると神経診察を取る必要が出てきたり、なかなかハードルが上がりますね。今日は一緒にしびれについて勉強しましょう。

 

  第12回 しびれの救急対応 ~しびれ軽症かな?~

 

 以下の文章内容は『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』を参考にして記載しています。すごくわかりやすい本ですので、もし外来をされている先生なら一度手にとってみてください。

 

① しびれの問診

 しびれはあいまいな用語であるため、診療録には患者の訴えるしびれの内容を具体的に記載する。

 発症様式(急性発症、緩徐進行性)、麻痺の程度(完全麻痺、不全麻痺)、麻痺の分布(単麻痺、片麻痺対麻痺四肢麻痺など)に加え、発症までの状態はどうだったのかその他に併発する症状などを聴取する。

 (臨林と研究・93巻4号(平成28年4月)p53-)

 

 末梢神経障害に夜症状は刺激症状と欠落症状(陰性症状)とに分けられる。刺激症状は痛みとしびれ、筋痙攣に代表される。欠落症状は感覚低下や筋萎縮などに相当し、神経障害進行とともに増大する。つまり、しびれは神経が中途半端に傷害されている状態で生じやすい(成人病と生活習慣病47巻1号 p12-)

 

② しびれの診察

 診察に重要なのは、感覚障害と腱反射があげられる。感覚障害は患者の主観的な感じ方に頼らざるを得ず、途中で整合性が取れなくなることもあり、ある程度割り切った診察所見を取るのがよい。

 カルテに関して記載する場合は以下の点に集中して記載する。

  1,左右差

  2,上下肢への広がり

  3,顔面を含むかどうか

  4,体幹を含むかどうか(脳血管障害や変形性脊椎症などの鑑別)

  5,手袋靴下型(遠位部優位)の分布かどうか

  6,髄節支配、あるいは末梢神経支配に一致した分布かどうか

 

③ しびれの疫学

 統計を取る施設や診療科によって差がある。しびれの6割り程度に原因となる何らかの神経疾患がみられる。最も多いのが多発神経障害であり、これは糖尿病やアルコール多飲などにより生じる。

 

④ しびれは感覚の異常か、それ以外か調べる。

患者の訴えるしびれ感の多くは、外的刺激によらない自覚的な感覚の異常である、必ずしも他覚的な所見が取れない場合や、運動麻痺であることもあり、更にはこむら返りや関節炎によるこわばりをしびれと表現することもあります。

 他覚的所見のある感覚障害(錯感覚、感覚鈍麻、知覚過敏、無感覚)を中心にしびれを考えてみましょう。麻痺があればそれを優先させて調べるほうが所見を取りやすいです。次に感覚障害の部位が多発性か限局性かに分け、多発性の場合、両側対称性か、非対称性かに分ける。

 

⑤ 他覚的感覚障害があるかを調べる(神経障害性か非神経障害性か?)

 感覚障害は自覚的なものであり、他覚所見がとれなくても症状を優先してフォローする。自覚的にはしびれ感を訴えるが、他覚的には所見がとれないものや、症状が一過性の場合は、非神経障害性のしびれであり、圧迫性、血行性、代謝性、心因性などを考える。

 朝の数分だけ手がしびれるというものの多くは圧迫性や軽い頚椎症によるものであり、来院時に他覚的所見がなければ経過観察で良い。

 

⑥ 感覚障害の分布は単発性か、多発性かで鑑別を考える。

単発性感覚障害

末梢神経障害か脊髄病変(脊髄症やヘルニア)、神経根症を考える。末梢神経障害では運動麻痺、感覚障害の分布に加えて腱反射の消失が大切な所見になる。

上肢

手根管症候群

 中年女性に多く、糖尿病、甲状腺機能低下症、関節リウマチ、透析などがリスクファクターですが、特発性が多いです。症状は夜間や朝方に強く、手をふると軽快するしびれがあります。他覚的所見では第4指の正中で分かれる正中神経領域の感覚障害や母指球筋の筋力低下や萎縮がみられる。

Phalen徴候や、Tinel徴候は感度・特異度ともに70%前後です。もし、診断に迷うことがあればエコーや電気生理学的検査を依頼する。

  Phalen徴候            :手関節を90°屈曲位の保持でしびれ感の増強

  Tinel徴候                :手根管入り口部(遠位手首 皮線)から近位1cm にかけて軽く叩くと正中神経領域の指先に放散痛あり。

以下のHPの記事を転載しています。図が載っており参考にしてください。

 http://www.okinawa.med.or.jp/old201402/activities/kaiho/kaiho_data/2011/201111/024.html

 治療は基本的に保存治療で、症状持続期間が1年以内の場合は、夜間のみのスプリント固定で60%は改善します。下記のHPを参考にしてください。装具が必要そうですね。

 スプリント固定        https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/13/4/13_4_351/_pdf

 手根管症候群について更にわかりやすい文献がWebにありましたのでHP載せておきますね。

   https://takanawa.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2018/03/2koukaikouza2018.pdf

円回内筋症候群

 ドライバーをよく使う大工やボーリング、ゴルフなどのスポーツ関係者に多く、肘関節よりの部分で正中神経が圧迫されて起こる。手根管症候群とは異なり首相にもしびれがあり、夜間の増悪がなく円回内筋部で圧痛がみられ、母子と示指の第一関節の屈曲ができなくなりOKジェスチャーで丸が作れなくなる

肘部管症候群、Guyon管症候群

 肘部管症候群は肘をよく使う男性に多く、洗顔時に水が溢れたり、4指外側、5指のしびれが認められる。Guyon管症候群は大工などにみられ、手背には感覚障害がない。手首尺側のTinel徴候陽性となる。

 肘部管症候群とGuyon管症候群の障害の部位については以下のHPを御覧ください。

https://www.yamadachiroshinkyu.com/%E8%82%98%E9%83%A8%E7%AE%A1%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%A8%E3%82%AE%E3%83%A8%E3%83%B3%E7%AE%A1%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/

高位撓骨神経麻痺

 腕枕などで上腕中央を圧迫された後に、下垂手、下垂指、第一背側骨間筋の感覚鈍麻がみられる。運動麻痺がメインでありしびれを訴えることは少ない。

頚椎症

 根症状(神経根の分布に沿った感覚障害や運動障害と脊髄症状(ミエロパチー症状)をきたしうるため、体幹や下肢の感覚障害や反射の異常、膀胱直腸障害の有無も確認する。

手口感覚症候群

 片側の手指と同速の口周囲がしびれる疾患で、橋や中濃の途中、視床などの脳血管障害によるもの。手にしびれを訴える患者に対しては必ず口周囲の症状も尋ねるようにする。

胸郭出口症候群

 いかり肩の男性に多い腕神経叢圧迫型と、なで肩・円背姿勢の女性に多い腕神経叢牽引型とその混合があり、どちらも上肢から肩、背部のしびれや痛みをきたす。

下肢

外側大腿皮神経障害

純粋な感覚神経で、鼠径靭帯の下を通っており、肥満や強いベルトなどで絞扼性の酒害を受けやすい。大腿上部外側のジンジン感や感覚鈍麻がみられ、くしゃみなどで腹圧が上昇するときに症状が強くなる。

足根管症候群

 内果の下で後脛骨神経が圧迫されて起こるもので、踵以外の測定にしびれ、痛みを起こす。

Morton

 ハイヒールを履いて中腰の姿勢になることが多い女性に多く、第3~4足趾間のしびれや痛みを訴える。

総腓骨神経麻痺

 外傷やあぐらなどで圧迫され、下垂足や下腿外側のしびれをきたす。深腓骨神経麻痺は靴による圧迫が多い。

腰椎ヘルニア

 L5, S1坐骨神経の病歴の感度は95%と高いため、大腿後部からふくらはぎへ向かう痛みがない場合はヘルニアの可能性が低い。長趾屈筋や長趾伸筋の筋力や足の感覚障害で部位診断を行う。

腰部脊柱管狭窄症

 高齢者に多く、臀部から大腿背側、下肢背側、足底までのしびれ感や痛みが起こり、しばしば立位や歩行で悪化するが、座位や前屈で改善するため自転車に乗っている時は痛みはない。脊髄病変では膀胱直腸障害、脊髄路の障害として反射亢進、筋痙性、Babinski反射の有無を評価する。

 

⑦ 多発性の場合、分布は対称性か非対称性かで分類する。

 多発性の多くは手袋靴下型の多発神経炎であり、非対称性の場合は、多発性単神経炎や中枢神経と末梢神経障害の複合などを考える。

対称性

 手袋靴下型の多発神経炎は、代謝・内分泌疾患や中毒・薬剤性の頻度が高く血液検査だけでなく、詳細に病歴を取る。感覚障害よりも筋力低下が目立つ疾患としてはGuillain-Barre症候群や慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CUDP)を考える。

非対称性

多発性単神経炎

 単神経障害を多発的に起こし、運動障害もありうる。原因疾患としては、糖尿病、血管炎、サルコイドーシス、アミロイドーシス、ライム病、リンパ腫、HIVなどがあり、いずれも対称性の多発神経炎を起こす。炎症性疾患で多彩な末梢神経障害が次々に起こる場合は、血管炎を疑う。

その他

 糖尿病アミオトロフィー、腫瘍随伴症候群、pure motor strokeなどが鑑別に上がる

 

⑧ しびれの検査

 病歴と身体所見から、疾患の性状と部位を考え診断を絞る。

 突然発症では画像が必要となる。また、突然の筋力低下ではGuillain-Barre症候群も考慮して髄液検査を行う。慢性的な手袋靴下型のしびれでは、一般採血、HbA1cビタミンB1・B12、銅、TSH、炎症反応、γグロブリン、ACE、抗核抗体、SS-A、SS-B、ANCAなどを考慮します。

 

⑨ しびれの治療薬

しびれの治療薬

薬剤

処方例

コメント

カルバマゼピン

100 mgを1日2回から開始し600~1200 mg/日まで増量

ふらつき、傾眠、SIADH、皮疹

リリカ

25 mg朝、75 mg夕から開始し300 mg/日まで増量

 

ノイロトロピン

1回8単位を1日2回

 

アミトリプチリン

25 mg眠前または10 mgを1日3回から開始

ふらつき、QT延長、抗コリン作用(尿閉、口渇など)

サインバルタ

20 mg眠前から

糖尿病抹消神経障害に

メキシレチン

100 mgを1日3回

QT延長

エパルレスタット

50 mgを1日3回

 

コバラミン

500 mcgを1日3回

ビタミンB12欠乏以外のしびれによく処方されるが、あまり効かない

 

⑩ 精神的要因によるしびれ

 しびれを訴える患者の4割程度では、器質的病態が見当たらず、精神的要因によるしびれと考えられる積極的な特徴を持つ。不安障害が多く、うつ病や身体表現性疾患も含まれます。

 

⑪ 参考:こむら返り

 こむら返りは突然の有痛性の筋痙攣で、筋収縮のために盛り上がってかkたくなっていることが確認され、それを引き伸ばすことで改善される。多くは、夜間に起こるため睡眠障害を起こし、冬に多い傾向がある。

 治療は、まずは寝る前のストレッチから始めてもらい、芍薬甘草湯を発作時に2包一度に飲むように渡しておく。

 

 いかがでしょうか。しびれについて少しは鑑別できるようになったでしょうか。しびれの分布についても、一度成書で確認しておく必要があると思います。一回では覚えきれないので、例えば調べる方法を持っていおくなどでも構いません。

  参考になるHPを以下に記載しておきます。

     四肢のしびれ  https://hospital.tottori.tottori.jp/files/20170703113827.pdf

 

次回は頭痛について一緒に勉強していきましょう。