第11回 呼吸困難の救急対応 ~呼吸器内科の先生お願いします~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回はめまいについて一緒に勉強しましたね。
本日は呼吸困難について一緒に勉強していきましょう。
勉強前のチェック
① 呼吸困難の鑑別として大きく3つに分けるなら?
② 呼吸困難で聞いておくべき問診とは?
③ 呼吸困難の身体診察、肺雑音理解できていますか?
④ 呼吸困難の検査は?
⑤ 呼吸困難のときの鑑別で急ぐものは?
⑥ 呼吸困難時の緊急対応は?
⑦ 喘息の診断と治療は?
⑧ COPDの急性増悪の診断と治療法は?
⑨ ACOSの急性増悪の診断と治療法は?
救急で呼吸困難の患者はよく見る疾患だと思います。しかし、なかなか鑑別も多岐に渡るような感じで対応に苦戦することも多いかと思います。呼吸困難の対応自身を持ってできますか?
第11回 呼吸困難の救急対応 ~呼吸器内科の先生お願いします~
① 呼吸器内科の疾患の鑑別に入る前に
緊張性気胸は除外すべし。以前、胸痛の項でお話したのでリンクを貼っておきますね。また、確認してください。特に胸腔穿刺は、なかなかやる機会もないので何度も読んで復習してください。
また、最近はやりの肺エコーを使いこなせると、みんなの見る目も変わるかも。
https://www.m3.com/open/clinical/news/article/639777/
気道閉塞がないか確認しよう。ABCのAについてまず確認!必ず以下のことを調べるように「もう困らない 救急・当直 ver.3(林 寛之編)」に記載があります。
1、身体所見でstridor(吸気時喘鳴)があれば、上気道閉塞
2、唾も呑み込めない咽頭痛・流涎あり、咽頭所見ほぼなしなら、急性喉頭蓋炎
3、火事、口の中がすすだらけ、嗄声なら、気道熱傷
4、乳児、stridorあり、激しい咳嗽ならクループ
5、既往歴でアナフィラキシー、ピーナッツや飴を食べていたなら窒息
上記を認めた場合は、経口気道挿管、外科的気道確保を行う。
② 呼吸困難の鑑別
限られた情報から疾患を送気する。原因を、『肺・心臓・その他』に分ける。
肺 :気胸、肺塞栓、気瘤制限、肺炎、ARDS
(medicina vol 56, No.4, p48-)
③ 問診
問診はこれまでと同じようにOPQRSTで質問しましょう。(「臨牀推論の技術」(野口善令著)を一部改変)
O(発症様式)
急性か、慢性か 突然発症の場合は鑑別は気胸や、肺塞栓、異物などによる気道狭窄に絞られる。
P(増悪/寛解因子)
夜間増悪する :心不全・喘息・GERD
労作中に息切れ :心疾患・肺疾患・貧血
労作後に息切れ :咳き込む・喘鳴:運動誘発性喘息
臥位で増悪する :心不全・喘息・COPD増悪・腹水・横隔膜機能不全
座位で増悪する :肝肺症候群・卵円孔開存
腹臥位で増悪する :片側性胸水
食後に増悪する・咳き込む:嚥下障害、GERD
Q(性質と程度):N/A
R(部位・放散):N/A
S(随伴症城):胸痛、咳、痰、発熱、動悸など
T(時間経過):持続時間(一過性、持続的など)
いつもの問診の方法(OPQRST)で聞いていきましょう。問診でだいぶ疾患が絞れて来たら次は身体診察です。
④ 身体所見
呼吸音(雑音)
呼吸音は連続性か断続性かにまず分けましょう。
<連続音>
低音ならrhoncusでボー、ボーっという音が聞こえます。
高温ならwheeze:でヒュー っていう音が聞こえます。
<断続音>
低音ならcoarse crackleでパチパチっという音が聞こえます。
高温ならfine crackleでパチパチっという音が聞こえます。Coarse crackleより低温ですね。
以下のHPではそれぞれの肺雑音について例が示されています。もし自信のない方は聞いてみてください。
肺雑音 https://www.easyauscultation.com/cases?coursecaseorder=2&courseid=201
Wheezeを聴取したらまずは、COPD急性増悪、喘息、心不全を考えましょう。
Crackleの聴取
吸気後期 間質病変を鑑別に挙げて肺線維症、間質性肺水腫などを疑う。
汎吸気 肺胞性病変を鑑別に挙げて肺炎、肺胞性肺水腫を疑う。
吸気早期 末梢気道病変を鑑別に挙げる。吸気早期に気道が開く音が口元で聴取できる。(early inspiratory cracklesと呼ぶ)
気管短縮
輪状軟骨と胸骨の位置が3cm以上が正常。2横指以下は気管短縮とする。
Hoover徴候
吸気時に胸郭下部が内側に惹かれるとHoover徴候陽性とする。
⑤ 検査
血液検査は、血算、生化学、凝固機能、血糖、感染症検査、補体価、動脈血ガスなどを検査する。また、胸部X線、心電図、必要であれば、頚部X線、CT(頚部・胸部)などを追加する。
⑥ 鑑別
まずは救急対応が必要な上気道狭窄を来す疾患を除外する必要がある。上気道狭窄を来す疾患が含まれている場合は気道確保の必要が出てくる。
⑦ 代表的な救急疾患と初期対応
1、急性喉頭蓋炎
呼吸状態悪化時の気道確保は困難を極めることも少なくないため、余裕を持った気道管理が望ましい。薬物療法として抗菌薬投与,副腎皮質ステロイド点滴投与や吸入を行う。特に入院後24 時間は要注意で、緊急気道確保できるようにしておく必要がある。
2、ウイルス性炎症による上気道狭窄
急性声門下喉頭炎は小児に多く、パラインフルエンザウイルスによるものが多い。アドレナリン吸入、副腎皮質ステロイド投与、加湿が有効です。
気道確保を基本として排膿処置(切開・穿刺)と抗菌薬投与を行うが、処置で喉頭浮腫が増悪する可能性も念頭におく。造影CT が診断に有用であり、縦隔への波及を見逃さないため頸胸部撮影がよい。
4、外傷・熱傷
顔面・頸部の外傷、喉頭熱傷(火災,化学物質,熱い飲食物)では喉頭浮腫が遅発性に増悪することがあり、喉頭外傷で受傷後2~3 日10)、喉頭熱傷で受傷後48 時間程度までは厳重に観察する。副腎皮質ステロイド点滴投与や吸入を行い、熱傷では予防的抗菌薬投与も考慮する。(JOHNS Vol. 33 No. 3 2017 p306 症状からみた救急疾患の診断と治療の手順 より転載。一部改変)
⑧ 喘息
ここでは夜間の救急外来で見ることがある喘息の治療について記載します。
喘息の定義
「喘息は気道の慢性炎症を本態として,変動性を持った気道狭窄(喘鳴,呼吸困難)や咳などの臨床症状で特徴付けられる疾患」と定義されている。
問診・身体所見
夜間や早朝に増悪する傾向があること、症状が感冒、アレルゲン曝露、天候の変化、笑い、大気汚染、強い臭気などで誘発されることに留意する。
聴診では呼気性喘鳴(wheezes)が特徴的である。気道狭窄の程度によっては吸気時にも聴取され、呼気延長を伴うこともある。
慢性鼻炎や鼻茸の合併症例、成人発症の喘息、重症な喘息ではアスピリン喘息の可能性を考える。NSAIDS内服後数時間以内に重篤な喘息を起こす。アセトアミノフェンとの交差は6.5%と比較的安全に使用できる。コハク酸エステルのステロイド(ソル・コーテフ、ソル・メドロール)注射も禁忌であり、リン酸エステルであるリンデロン・デカドロンを用いる。
気管支喘息の検査
発作時にβ2刺激薬を吸入することでFEV1が12%以上改善した場合に気管支喘息と確定診断できる。
喀痰好酸球≧3%も診断に有用。
重症例や難治例では肺炎、心不全、気胸、無気肺、気道異物などとの鑑別や合併症の確認のため胸部単純X線を行う。
治療
急性発作時の対応
ウイルス感染、アレルギーへの暴露、過労やストレスが誘引となることがある。
SABA(短時間作用型吸入β2刺激薬)
メプチンエアー1回2吸入。最大4回/日
ベネトリン吸入1回0.3-0.5mL+生理食塩水5mL
副腎皮質ステロイド薬
ソル・メドロール(40 mg/V) 1回40-125mg+生食100mL 60分かけて
ハイドロコートン注(100 mg/2mL/V) 1回200-500 mg+生食100mL 60分かけて
リンデロン注(4mg/mL/A) 1回4-8 mg+生食100mL 60分かけて
長期管理薬
ステップ1:ICS低用量
ICSが使用できなければLTRA,、テオフィリン
ステップ2:ICS低~中用量
ICSで不十分な場合には、LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤
ステップ3:ICS中~高用量
ICSに次のいずれか、あるいは複数を併用。LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤
ステップ4:ICS高用量
ICSにいずれか複数を併用:LABA、LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤
・長時間作用性β刺激薬
吸入薬 サルメテロールキシナホ
貼付薬 ツロブテロール
経口薬 プロカテロール、クレンブテロール、ホルモテロールフマル酸塩、など
・吸入ステロイド薬/吸入長時間作用性β2刺激薬
フルチカゾン/サルメテロールキシナホ
ブデゾニド/ホルモテロールフマル酸
フルチカゾンプロピオン酸エステル/ホルモテロールフマル酸
フルチカゾンフランカルボン酸/ビランテロールトリフェニルフェニル酢酸塩
*個々の吸入薬よりも有効性が高くなる
・LAMA 長時間作用性抗コリン薬
チオトロピウム臭化物水和物 1日1回2吸入で24時間効く
・LTRA ロイコトリエン受容体拮抗薬
プランルカスト、モンテカストナトリウム
・テオフィリン徐放製剤
その他の治療によって効果不十分な場合に追加治療する
喘息コントロール評価
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コントロール良好 (すべての項目が該当) |
コントロール不十分 (いずれかの項目が該当) |
コントロール不良 |
喘息症状(日中および夜間) |
なし |
週1回以上 |
コントロール不十分の 項目が3つ以上当てはまる |
発作治療薬の使用 |
なし |
週1回以上 |
|
運動を含む活動制限 |
なし |
あり |
|
呼吸機能(FEV1およびPEF) |
正常範囲内 |
予測値あるいは 自己最高値の80%未満 |
|
PEFの日(週)内変動 |
20%未満 |
20%以上 |
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増悪 |
なし |
年に1回以上 |
月に1回以上 |
未治療患者の治療導入
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治療ステップ1 (軽症間欠型相当) |
治療ステップ2 (軽症持続型相当) |
治療ステップ3 (中等症持続型相当) |
治療ステップ4 (重症持続型相当) |
喘息症状 |
週1回未満 軽度で短い |
週1回以上だが 毎日ではない |
毎日 |
毎日 治療家でもしばしば増悪 |
夜間症状 |
月2回未満 |
月2回以上 |
週1回以上 |
しばしば |
日常生活の妨げ |
なし |
月1回以上 |
週1回以上 |
持続的 |
⑨ COPDの急性増悪
定義
COPDの急性増悪とは日本呼吸器学会が編集した「COPD診断と治療のためのガイドライン第4版」(2013年)、では「COPDの増悪とは,息切れの増加,膿性疾の出現,胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め,安定期の治療の変更あるいは追加が必要となる状態」と定義されています。つまり、通常の治療で今まで無症状だったのが有症状になった時点でCOPDの急性増悪と考えればよいということになります。
症状
COPDの急性増悪の症状は息切れの増強、咳嗽や喀痰の増加などがあげられます。心不全、気胸、肺血栓塞栓症などの他疾患との鑑別が重要となります。
検査
検査としては、動脈血液ガス、血液検査(血算、CRP、電解質、肝腎機能など)、胸部X線 、心電図を施行します。
さらに、必要であれば、胸部CT、血液培養、喀痰グラム染色と培養、肺炎球菌尿・喀痰検査、心臓超音波、血性BNP検査、凝固検査を行います。(診断と治療 2014年増刊号(Vol 102/Suppl)参照)
重症度分類
COPD増悪に関する臨床試験で用いられている増悪の重症度分類では,咳嗽,喀痰(量の増加や膿性化)、呼吸困難の悪化が3日以上継続し、さらに抗菌薬または/かつ全身ステロイド薬が必要である場合の増悪を中等度、呼吸不全などで入院が必要な場合の増悪を重度とする場合が一般的です。
治療
COPDの急性増悪時治療は国家試験で覚えた基本はABCアプローチであり、A(antibiotics):抗菌薬、B(bronchodilators):気管支拡張薬、C(corticosteroids):ステロイド薬です。増悪時の治療には,短時間作用性β2刺激薬SABS(short-acting β2-agonist:SABA)の吸入が第一選択と位置づけられます。ネブライザーと定量噴霧式吸入器がある。ステロイド薬の全身投与は、呼吸機能や低酸素血症をより早く改善させ、入院期間短縮も期待できます。投与量、期間については、プレドニゾロン30~40mg/dayを10~14日間程度が目安であり、作用の観点からも不必要な長期投与は避けるべきです。また、ステロイドは中止するときには必ず漸減するようしましょう。 抗菌薬投与の対象については様々な意見がありますが、喀疾の膿性化がみられ細菌感染の可能性が高い場合、非侵襲的陽圧換気療法や侵襲的陽圧換気療法を行う場合に推奨されます。(診断と治療 2014年増刊号(Vol 102/Suppl)参照)
⑨ ACOS(Asthma-COPD Overlap Syndrolne)
ACOSはこの喘息とCOPDが併存した病態を有するものと定義されています。
COPD側から、COPDと喘息のオーバーラップを考えるとCOPDの気腫性病変にさらに気道の可逆性変化があると考えます。COPDで吸入の気管支拡張薬で非常に改善する場合、可逆性がありACOSが疑われます。呼吸機能検査では気管支拡張薬を吸入してから12%以上改善すれば可逆性ありと判断されます。ただ、呼吸機能の悪い患者さんは改善率が12%以上になることも半分程度おり、それをオーバーラップととらえることには議論があるとのことです。
喘息側から考えると、もともと喘息の診断がついている人が喫煙していて、喘息発作を繰り返したり、感染症が何度も起こったりする場合はCOPDのオーバーラップを疑う。
治療はACOSの国際的ガイドラインでは、喘息の治療も考えて必ず吸入ステロイドを使用することを推奨しています。また、気管支拡張薬の単独治療は否定されています。
炎症の面から考えるとCOPDは好中球性の炎症で、ACOSは好酸球の炎症になります。ステロイドは好酸球性の炎症にのみ効き好中球性の炎症には効きません。したがって、喘息にはステロイドが、COPDには気管支拡張薬が基本的な治療になります。(日本医事新報 No.4844 2017.2.25 p40-)
いかがだったでしょうか。次回はしびれの勉強をしたいと考えています。次回もお楽しみにしてください。