第10回 めまいの救急対応 ~めまい苦手だな~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は脳卒中について勉強しましたね。
本日はめまいについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前のチェック
- めまいの分類できますか?
- めまいの問診で何を聞きますか?
- 注目すべきバイタルサインは?
- 身体所見は何を取りますか?
- 頭部画像でどこに注目しますか?
- BPPVか否かはどう判断しますか?
- 末梢性だがBPPVが否定的であれば?
- 末梢性だが蝸牛症状もある場合は?
- 帰宅か入院か判断するためには?
- HINTS plusとは?
- ①めまいの分類
- ② めまいの問診
- ③ バイタルサイン
- ④ 身体所見
- ⑤ 頭部画像
- ⑥ BPPVか否か
- ⑦ 末梢性だがBPPVが否定的であれば、前庭神経炎を疑う。
- ⑧ 末梢性だが蝸牛症状もある場合は、メニエール病を疑う。
- ⑨ 帰宅か入院か判断しよう
- ⑩ HINTS plus
- ⑪ トピック1:眼振について深めよう
- ⑫ トピック2:中枢性めまいの病巣診断
救急でめまいの患者はよく見る疾患だと思います。しかし、なかなか鑑別も多岐に渡り対応に苦戦することも多いかと思います。めまいの対応自身を持ってできますか?
第10回 めまいの救急対応 ~めまい苦手だな~
①めまいの分類
回転性か、非回転性か判断する。回転性は耳鼻科疾患もしくは小脳・脳幹の関連疾患です。非回転性めまいは前失神、平衡障害、ふらつきです。疫学では耳鼻科のめまいが45%ですが、回転性めまいのうちの5~10%が中枢性めまいとなる。(内科救急ただいま診断中 渡邉純一著)
救急外来では中枢性めまいと前失神を見逃さないようにしましょう
② めまいの問診
病歴聴取はとても重要で必ずOPQRSTを聞くようにしましょう。
ここで救急外来でのめまいのアプローチとして『救急外来、ただいま診断中(坂本壮著)』では次のようにアプローチをするように記載されています。
めまいのアプローチ
1,中枢性めまい、前失神を除外
2,BPPVか否か
3,末梢性めまいの鑑別
4,帰宅 or 入院の判断
そして危険なめまいを察知するためにOPQRSTになぞらえて以下のようにRed Flagをあげています。
OPQRSTAについてみてみましょう。
O;Onset 発症様式
突然発症のめまいは危険。脳血管障害はsudden onsetです。ただコモンなBPPVも突然発症です。
P;Position/ Prodrome 発症時の姿勢/前駆症状
頭を動かしていない状態で出現しためまいは危険。頭を動かしたときに生じるめまいはBPPVを考える。
Q:Quality どのようなめまいか
どのようなめまいであったかを患者さん本人の言葉で話してもらう。
R:Risk 脳卒中のリスク(冠危険因子+その他)
脳梗塞を否定するためにも危険因子を覚えておきましょう。
冠危険因子:高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、メタボリックシンドローム
その他:心房細動、多量の飲酒、睡眠時無呼吸症候群
S:severity 重症度
重症度は症状の強さとは相関しない。
T:Time 持続時間
持続時間。1回1回のめまいの持続時間について把握しましょう。
頭囲変換後数秒してめまいが出現、同じ姿勢でいると症状が数十秒で消失とくればBPPVの可能性が高い。
持続時間 |
考えられる疾患 |
数秒~1分以内 |
BPPV |
数分~数時間 |
椎骨脳底動脈循環不全、TIA |
20分以上~数時間 |
|
数日間 |
前庭神経炎、蝸牛炎 |
持続 |
A:Aggravation factor/Alleviating factor/Associated symptoms) 増悪因子/寛解因子/随伴症状
頭を動かしているときに、めまいが強くなることは普通ですが、頭を動かさないにも関わらず症状 を認めるときは注意が必要です。また、蝸牛症状の有無についても聞きましょう。
③ バイタルサイン
前失神では、徐脈性不整脈や大動脈解離などの心血管性失神をまずは除外することが重要です。脈拍、血圧の推移、血圧の左右差を確認しましょう。
④ 身体所見
めまいの患者において眼振は非常に有用な所見です。眼振の詳細を確認しましょう。末梢性の眼振は一方向性の眼振です。眼振を確認する際にはDix-Hallpike testを覚えましょう。詳しくは、以下にHPを載せておきます。
Dix-Hallpike test https://www.m3.com/open/clinical/news/article/585068/
めまい動画集 http://maruta-gim.wixsite.com/maruta-gim/bppv
参考にしてください。また、その時に眼振が起こった場合は、そのまま、Epley法を試してみてください。
Head impulse test
片側の前庭機能の低下を見つける検査です。詳しくは動画を参考にしてみてください。
Head impulse test https://www.youtube.com/watch?v=Wh2ojfgbC3I
前庭機能の障害ということは末梢性である可能性が高いということ。もし、異常(陽性)であればBPPV、前庭神経炎を疑います。
感覚障害のチェック
必ず、四肢の運動と感覚障害も確認しましょう。
救急外来では歩かせよう
めまいの患者によく言われることは、めまいの患者を家に帰すときには必ず歩いてもらうことが大切です。もし、歩けなければ小脳障害を疑い必ずMRIをとり精査しましょう。
⑤ 頭部画像
頭部CTは出血性病変については見落とすことが少ないですが、脳梗塞は判断できないのでMRIで精査するようにしましょう。特に注意してみる領域は小脳と脳幹です。小脳出血、梗塞もしくは脳幹出血、脳幹梗塞がないかを確認しましょう。また、それでも病変が見つからなければ小脳や脳幹以外に,小脳橋角部や側頭骨,島回後部から側頭頭頂葉接合部にも注意してください。(日本神経治療学会 標準的神経治療:めまい p196)
また、高齢者の眩暈の原因として多いものに椎骨脳底動脈血流不全症があります。これは、一過性に椎骨動脈や脳底動脈の血流が減少することでめまいが生じ、構音障害や複視、運動失調などの脳幹・小脳症状を一過性に伴っていればTIAと診断する。
⑥ BPPVか否か
BPPVと診断するためには、めまいの1回1回の持続時間が短いことと潜時を認めることです、頭位変換後に数秒たってから回転性眩暈が出現し、一定方向を向いていると戻るのが典型です。BPPVを診断するためには、Dix-Hallpike testを行います。その時に眼振が起こったほうが患側です。
診断についての詳細は『耳喉頭頸 91 巻 5 号 良性発作性頭位めまい症』に記載されています。その一部を抜粋し記載します。
『頭位変換眼振検査にて数秒から数十秒の潜時を有する回旋成分が強い上眼瞼向き眼振が出現し,これが 1 分以内に消失する場合は,後半規管型 BPPV(半規管結石症)と診断する。Dix-Hallpike 法では,眼振が出現する頭位で下になる側が患側である。
頭位眼振検査で方向交代性向地性(下行性)眼振を認めた場合は外側半規管型 BPPV(半規管結石症),方向交代性背地性(上行性)眼振を認めた場合は外側半規管型 BPPV(クプラ結石症)と診断する。』
方向交代性眼振については動画を確認してみてください。
方向交代性眼振:https://naitoentclinic.com/nystagmus/
患側が同定出来たらそのままEpley法に移ります。眼振の部分を参考にしてください。
動画 :http://maruta-gim.wixsite.com/maruta-gim/bppv
BPPVは診断が比較的容易であるため、できるだけ診断をしてあげましょう。
⑦ 末梢性だがBPPVが否定的であれば、前庭神経炎を疑う。
BPPVはめまいの持続時間が1分以内といわれています。もし、1分以上のめまいが続くようなら前庭神経炎を疑いましょう。
前庭神経炎と診断するための診断基準は以下の診断基準を参照してください。温度眼振検査はハードルが高く、疑い症例で耳鼻科へコンサルトするのが妥当と考えます。以下の文献より診断基準を転載します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/76/4/76_310/_pdf
前庭神経炎(vestibular neuritis)診断基準日本めまい平衡医学会改訂版(2016年)
A.症状
1.突発的な回転性めまい発作で発症する。回転性めまい発作は1回のことが多い。
2.回転性めまい発作の後,体動時あるいは歩行時のふらつき感が持続する。
3.めまいに随伴する難聴,耳鳴,耳閉塞感などの聴覚症状を認めない。
4.第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。
B.検査所見
1.温度刺激検査により一側または両側の末梢前庭 機能障害(半規管機能低下)を認める。
2.回転性めまい発作時に自発および頭位眼振検査 で方向固定性の水平性または水平回旋混合性眼 振を認める。
3.聴力検査で正常聴力またはめまいと関連しない 難聴を示す。
4.前庭神経炎と類似のめまい症状を呈する内耳・ 後迷路性疾患,小脳,脳幹を中心とした中枢性疾患など,原因既知の疾患を除外できる。
診断
前庭神経炎確実例(Definite vestibular neuritis):A.症状の4項目を満たし,B.検査所見の4項目を満たしたもの。
前庭神経炎疑い例(Probable vestibular neuritis):A.症状の4項目を満たしたもの。
前庭神経炎と考えた場合の対処法として『耳喉頭頸 91 巻 5 号(2019 年増刊号)p254-』に対症療法の一例が示されている。その部分を転載します。
めまい発作の抑制
7%重曹水(メイロン®):250 mL,点滴静注
7%重曹水(メイロン®):20~40 mL,静注
*重曹水にはアルカローシス,テタニーなどの副障害があるため,高血圧,腎機能障害,肺水腫症例では慎重に投与する
嘔気・嘔吐の軽減
メトクロプラミド(プリンペラン ®):10 mg,静注
鎮静,不安の軽減
ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス P®):25~50 mg,筋注
神経,感覚上皮の保護 前庭代償の促進
メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®):250 mg,点滴静注
⑧ 末梢性だが蝸牛症状もある場合は、メニエール病を疑う。
疫学は、30~40歳代の女性に多い。蝸牛症状(耳鳴や難聴)を伴っためまいの場合は必ずめまいを繰り返していないかを確認しましょう。治療は耳鼻科診察が必要ですが、救急外来では対症療法を行いましょう。初発では突発性難聴と診断することが多いです。必ず耳鼻科に受診してもらうようにしてもらいましょう。
⑨ 帰宅か入院か判断しよう
めまいの患者さんで帰宅可能なのは、中枢性めまいが否定的かつ歩行可能、経口摂取可能な方です。
検査として、採血で電解質、貧血、低血糖を確認しましょう。また、心電図をとり心原性の評価をしましょう。中枢性を疑うのであれば頭部CT、MRIをとり、薬剤歴も聞き薬剤性も否定しましょう。
⑩ HINTS plus
皆さんも一度は聞いたことがあるHINTS。ただ、どんな所見で末梢性、中枢性と悩んでしまうことも多いかと思います。ここではHINTSについて再度勉強しましょう。
HINTS は,Head Impulse test,Nystagmus,Test of Skew の頭文字をとったものです。一つずつみていきましょう。(耳喉頭頸 91 巻 5 号(2019 年増刊号)めまい 参照)
Head Impulse test
急速に頭部を動かしたときの眼球運動を観察して,前庭動眼反射の評価を行う検査である。被検者に固定した指標を注視するよう示したうえで,被検者の頭部を急速に10~20°程度、左右に回転させる。このとき眼位にズレを生じたら陽性(異常)です。
Head impulse test https://www.youtube.com/watch?v=Wh2ojfgbC3I
陽性が末梢神経障害を示します。
nystagmus
注視眼振検査で、注視方向性眼振を認めれば陽性である。注視方向性とは向いた方に向かって眼振がみられること。
注視方向性眼振 https://www.youtube.com/watch?v=9LsHp-tgx8w
陽性なら中枢性を疑う。
test of skew
skew deviation(斜偏倚)の有無を確認する検査である。skew deviation とは左右の眼位の上下方向のずれで、中脳や橋、延髄の病変によって生じる。片眼を遮蔽し,遮蔽していないほうの眼の動きを観察するcover test を行って診断する(右眼が下転,左眼が上転している場合,右眼を隠すと左眼はゆっくり下転し,左眼を隠すと右眼は上転する:test of skew 陽性)。
test of skew陽性 https://www.youtube.com/watch?v=zgqCXef-qPs
陽性なら中枢性を疑う。
plus
HINTS のみでなく「急性の難聴の有無」を併せて評価するHINTS plus とすることでAICA の微小梗塞も拾い上げることができるという報告がある。さらに,“めまい突難”などの蝸牛症状を伴う末梢性AVS も除外されることになる。(耳喉頭頸 91 巻5 号(2019 年増刊号)前庭神経炎 参照)
⑪ トピック1:眼振について深めよう
自発性異常眼球運動検査のひとつで,座位正面位で行う.正面,左右,上下約30度の各点を注視させ,注視時の眼球運動を観察する。注視眼振のうち、代表的なものに定方向性眼振、注視方向性眼振、垂直性眼振がある。
定方向性眼振は前庭系の左右非対称性の障害を示唆し、多くは末梢前庭性の障害であるが、中枢性を否定するものではない。
脳注視方向性眼振は,注視した方向に急速相をもつ眼振である。脳幹・小脳障害によって神経積分器に異常が生じると注視方向性眼振が生じる。臨床的には鎮静薬,抗痙攣薬の副作用やアルコール中毒によって生じることが多い。注視眼振検査での垂直性眼振,純回旋性眼振も中枢性の所見である。回旋性眼振は,延髄の障害で出現し Wallenberg 症候群でみられる。(日耳鼻 121:1453-1457, 2018参照)
⑫ トピック2:中枢性めまいの病巣診断
小脳梗塞は AICA(前下小脳動脈)の血流障害による小脳半球の梗塞と,PICA(後下小脳動脈)の障害による小脳虫部の梗塞に分けられる。
延髄外側梗塞で見られる症状と病巣
・めまい(前庭神経核)
・運動失調(小脳脚)
・同側顔面痛,しびれ(三叉神経脊髄路核)
・対側温痛覚障害(脊髄視床路)
・構音嚥下障害(迷走神経背側核,疑核)
・ホルネル症候群(交感神経路)
小脳半球梗塞(AICA 梗塞)
・小脳症状を認める
・四肢の小脳性運動失調
・ジスメトリア(指鼻試験異常)
・拮抗反復機能障害(回内回外試験)
・企図振戦
ピットフォール:末梢性蝸牛症状を示す場合あり。内耳動脈は AICA から分枝。難聴,耳鳴。
小脳虫部梗塞(PICA 梗塞)
・小脳症状を認めない場合がある
・体幹失調主体
・四肢の失調
・構音障害 少ない
ピットフォール:悪性頭位めまい症。外側半規管クプラ結石症に類似
中枢性障害では、めまいだけでなく神経所見をほとんどの場合持ちます。必ずチェックするようにしましょう。
今週からは理解度チェックはお休みします。その代わりにもっと濃密に記事を書きたいと思っています。理解度チェックを再度載せてほしいという方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。
次回は呼吸困難について記載します。