第3回 胸痛③ ~巨大モンスターとの戦い③~
2019/12/2更新
第三弾です。Med-Dis(メディス)です。
前回に引き続き本日も救急外来で見る胸痛の対応③について記載してみたいと思います。
勉強前の問題
①5 killer chest painとは?
②肺血栓塞栓症の初期対応とは?
③緊張性気胸の初期対応とは?
④食道破裂の初期対応とは?
前々回勉強した『5 killer chest painの疾患だ!』っと気づいても、その対応ができなければせっかく勉強したのに意味がありませんね。第二回は、急性心筋梗塞と大動脈解離について学びましたね。今回はその残りの肺血栓塞栓症、緊張性気胸、食道破裂の初期対応について学びましょう
第3回 胸痛③ ~巨大モンスターとの戦い③~
① 復習
まずは、復習から。またまた、5 killer chest painとは、、、。もういいですね。
1, 急性心筋梗塞
2, 大動脈解離
3, 肺血栓塞栓症
4, 緊張性気胸
5, 食道破裂
余裕ではないでしょうか。では、早速本題へ移りたいと思います。
② 肺血栓塞栓症
検査はまず、病歴から気づくことも多いのではないでしょうか?突然発症の呼吸苦、失神などの病歴からあやしい、、、と気づけたらしめたもの。ただ、症候にはバリエーションがあるものです。徐々に呼吸困難がでてきたといっているけど、、、。ん~疑えますか?
検査
脈拍、呼吸数、SpO2について見てみましょう。SpO2が95%以上でも実は呼吸数で稼いでいる場合もあるのです。症候で肺血栓塞栓症を疑ったら、心電図、胸部X線、心エコーを行いましょう。第1回のブログで心電図、胸部X線については書きました。
復習いってみましょう。
胸部X線
Westermark's sign:肺動脈閉塞による末梢血管影の減少・血流低下領域の透過性亢進が見られる。
https://quizlet.com/83088134/clinical-pulmonary-embolism-flash-cards/
knuckle sign:肺門部肺動脈の拡張が見られる。 http://www.teramoto.or.jp/teramoto_hp/kousin/sinryou/gazoushindan/case/case157/index.html
心電図
心電図ではS1Q3T3がみられるというが実際に見られるのは10-20%。気を付けたいのは洞性頻脈と前胸部誘導の陰性T波。
右室負荷所見については以下の1-7を覚えたい。
1,不完全/完全右脚ブロック
2,Ⅰ誘導、aVL誘導の深いS波
3,前胸部誘導移行帯のV5誘導への移動
4,Ⅲ誘導、aVF誘導のQ波
5,右軸偏位
6,四肢誘導での低電位
7,下壁と前壁誘導での陰性T波
(参考;救急外来 ただいま診断中 坂本壮 著)
ん~覚えられない。
覚え方は、『3, 5は軸の偏位を示しています。2, 4はS1Q3T3を含む。1は右心負荷になって右脚ブロック。伝導路が切れると覚えましょう。』 7は覚えましょう。大事ですよ。
ほかの検査でも右心負荷所見を確認しましょう。右心負荷を直接見る方法として、心エコーが有用ですね。
心エコー
右心負荷所見として以下の2つを覚えましょう。
D-Shape;短軸像で右室が左室を押している像がみられる。
McConnell徴候;右室自由壁運動は低下するが、心尖部は運動比較的保たれている。
特異性が高いと言われる。
D-dimer
D-dimerは500μg/L以上では否定できるといわれる。ただし、高齢者の場合は疾患特異度が下がるため、年齢が50歳以上の場合は【年齢×10μg/L】を基準にすることが推奨されています。
また、D-dimerは悪性腫瘍、感染、炎症、出血、大動脈解離などでも上昇するので注意が必要です。
(内科 Vol. 123 No. 1(2019))
ここでWell’s modified scoreをつけてみましょう。
http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/modified_wells_criteria.html
これでかなり疑われたら、造影CTで確認すべし。
治療
肺血栓塞栓症と診断したら次は治療です。
治療はガイドラインを参照すると
(参考;肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に 関するガイドライン(2017年改訂版))
1、呼吸循環管理
低酸素血症があれば酸素投与は推奨Ⅰ、エビデンスレベルAです。
低血圧にはドパミン、ノルアドレナリンを考慮。推奨Ⅱa、エビデンスレベルBです。
2、薬物治療
治療の中隔は抗凝固療法並びに血栓溶解療法。抗凝固が禁忌でない限り、重症度によらず診断され次第なるべく早く投与を開始する。
抗凝固療法の投与期間は一般的に初期治療期(7日)、維持治療期(初期治療後~3か月)、延長治療期(3か月以降)とされる。
初期治療期(7日まで);未分画ヘパリンでず80単位/kg,あるいは5,000単位を単回静脈投与。以後,時間あたり18単位/kgの持続静注を開始する場合が多い。APTTが対照値の1.5~2.5倍となるように調節。経口抗凝固薬への移行に関して,ワルファリンを選択する場合は5-7日間かぶせて使用する。
詳しくはhttp://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdfへ
③ 緊張性気胸
緊張性気胸は緊急症であり、治療までの時間的余裕はなく、胸部単純X線、胸部単純CTなどの画像検査を行って診断できないと考えておく。
治療はもちろん胸腔ドレナージ。一般には中腋窩線第4、または第5肋間から挿入する。詳しくは正書を参考にされたし。(研修医手技マニュアルなどにも載っています)
ここでは緊急を要する場合の胸腔穿刺について解説します。下記の順番を必ず覚えてくださいね。
後でテストしますからね~。
胸腔穿刺手順
- 第2肋間鎖骨中線上で肋間の中央をアルコール消毒する。
*この位置では下の肋骨の上縁にも血管が走っていることなどの理由
- 14Gか16Gの留置針で穿刺する。
- その後は10mLのシリンジを装着し、胸腔に挿入されたことは『シリンジの内筒を引かず、それが自然に上昇することを視覚的に確認する』ことで可能です。
もう一度、第二肋間消毒→刺す→シリンジで見る、ですね。
ちなみに、第二肋間は第二肋骨(胸骨角付着の肋骨)の下の空間ですよ~。
(Emergency Care 2012 vol.25 no.7 (655))
とはいえ、見えないところを穿刺したり、胸腔ドレナージを行うのは怖いですよね~(汗)
そこで最近では、肺エコーの方法が提案されています。肺エコーでは気胸を診断できるし、さらに穿刺場所の血管や肺の有無なども確認できてしまう。すごいですね。詳しくは、『肺エコーで切り抜けろ』 LiSA VOL.22 NO.08 2015-8に書かれています。一読を。この文献の中で『胸腔穿刺は折れてしまったり,組織で閉塞してしまったりして十分な効果が得られないことも多い。数本を束にして穿刺したりする必要があるそうです。』。一発で抜けなくても気にしな~い。鋼のメンタルで対応!
④ 食道破裂
発症起点と臨床症状から本症を疑う。大量飲酒後の嘔吐に伴い発症することが多いです。
本性が疑われた場合は『①胸部単純X線、②胸部CT、③水溶性造影剤を用いた食道造影』という手順で検査を行う。水溶性造影剤を用いた食道造影では食道造影坐位の食道外流出所見で確定診断できるとともに穿孔部位や穿孔径なども確認できる。治療は外科的治療が原則となる。
穿孔画像を参考にhttp://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-3/kin03.pdf
いかがだったでしょうか。今回は肺血栓塞栓症、緊張性気胸、食道破裂について解説しました。肺血栓塞栓症、緊張性気胸は初期対応まで抑えておく必要がありますね。特に緊張性気胸はとっさにどのような道具が必要でどう対応するか再度確認しましょう。食道破裂は診断までで外科に渡しましょう。
最後に緊張性気胸についてテストしましょう。
理解度チェック(胸腔穿刺手順)
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- 第 肋間鎖骨中線上で肋間の をアルコール消毒する。
- Gか Gの留置針で穿刺する。
- その後は mLのシリンジを装着し、胸腔に挿入されるのを、シリンジの内筒を 、それが自然に上昇することを視覚的に確認する。
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簡単でしたか?
まとめ ・肺血栓塞栓症は緊急疾患であり検査所見と治療は理解しておく ・緊張性気胸は胸腔穿刺を緊急にする必要があり手順を覚えておく ・食道破裂は外科的疾患だが診断はスピーディに行えるようにする |
次回は意識障害について一緒に勉強しましょう。