第35回 重症患者における心房細動の治療 ~心房細動の治療必要?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は心原性ショックについて一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は重症患者における心房細動の治療について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 重症疾患に伴う心房細動の疫学

 ② 心房細動のリスク因子

 ③ 心房細動の治療

 ④ 重症患者における心房細動は臨床経過に影響を与えるか

 ⑤ 重症患者における心房細動は予防・治療すべきか

 ⑥ Rateの治療か、Rhysm治療か

 ⑦ 脳梗塞リスクの推定

 ⑧ まとめ

救急外来で心房細動を示して来院することはよくありますね。特に高齢者では脈の不整は、脈を触れただけで心房細動とわかってしまう場合も多々あります。今回は、「ICU入院中にこれまでに既往がなかった患者さんが突如として心房細動になってしまった。」というときの対処法について考えていきたいと思います。では勉強していきましょう。

 

35回 重症患者における心房細動の治療 ~心房細動の治療必要?~

 

本文内容は前半部が『重症患者管理マニュアル(平岡栄治等 編)』、後半部『集中治療ここだけの話(田中竜馬 編)』を参考に記載しています。両本ともに集中治療室での治療方針を最新のエビデンスをもとに書かれており、また読みやすい内容になっています。ご一読を。

 

① 重症疾患に伴う心房細動の疫学

 心房細動はICUで最も頻度の高い不整脈です。重症ほど頻度が高く、死亡率が高くなります。心臓手術後の10-65%に、胸部外科手術後の10-23%に胸部手術以外の5-10%に生じるとされます。内科ICUでは10-20 %とされます。心房細動は重症敗血症患者の5.9%、重症敗血症なしの入院患者では0.65%の発症率でした。

 

② 心房細動のリスク因子

電解質異常

低K血症、低Mg血症

心房負荷

血栓塞栓症やACSたこつぼ型心筋症に代表されるストレス性心筋症、肺性心、心不全など、心房に過度の負荷がかかることも心臓細動の原因

CRP

症例対照研究で持続性心房細動は、対照群(心房細動のない)と比較して有意にCRPが上昇していることが報告されている

昇圧薬

ICUではカテコラミンを使用する頻度が高い。これらも心房細動発症の原因となる。ドパミンのほうがノルアドレナリンよりも心房細動発症が多い。

カテーテルの先端位置

中心静脈カテーテルの先端が上大静脈内にとどまらず、右心房内まで挿入されている場合、その先端刺激により心房細動が惹起されることがある(カテ先には注意が必要)

その他

継続されていたβ遮断薬の中断、血管内脱水、疼痛、苦痛、発熱

 

③ 心房細動の治療

 心房細動の治療は大きく2つに分類されます。

 Downstream治療       :抗不整脈薬などによる治療

 Upstream治療           不整脈を起こしうる病態への対処

具体的なDownstream治療の実際:レートコントロール

 心拍数の目標に関してはRACEⅡ trialで安静時の心拍数が110 bpm未満を目指す穏やかなコントロールが良いことが明らかとなっています。これを踏まえて、2013年の改定された日本循環器学会のガイドラインでは110 bpm未満にすることを目指す調節法をclassⅡaで推奨しています。

薬剤

投与例

β遮断薬

エスモロール

500 μg/kgを1分かけて静注後、50-300 μg/kg/minで持続投与

ランジオロール

(日本で使用される薬物)125μg/kgを1分かけて静注後、心機能に応じて1-40μg/kg/minで持続投与

非ジヒドロピリジン系Caチャネル拮抗薬

ベラパミル

0.075-0.15 mg/kgを2分かけて静注後、5μg/kg/minで持続投与

ジルチアゼム

0.25 mg/kgを2分かけて静注後、5-15 mg/hrで持続投与

ジギタリス製剤

ジゴキシン

0.25 mgを静注し、反応に乏しい場合は1.5 mg/24 hrを上限に繰り返し投与

アミオダロン製剤

具体的なUpstream治療の実際:リズムコントロール

 ICUの設定ではレートコントロール、リズムコントロールを比較した試験では死亡率に有意差は認められなかった。不整脈薬によるリズムコントロールを行う場合は以下のHPを参考にしみてください。

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/73/2/73_85/_pdf/-char/ja

 

④ 重症患者における心房細動は臨床経過に影響を与えるか

 重症患者に一時的にみられる心房細動(AFOTS)および術後心房細動(POAF)は有害事象との独立した危険因子として受け入れられています。しかし、それは独立した危険因子ではなかったとする臨床結果も出ておりまだ決定的な結論は出てきません。ただ、基本的にはAFOTSとPOAFは有害事象と関連があると受け入れて良いと考えられています。

 

⑤ 重症患者における心房細動は予防・治療すべきか

 AFOTやPOAFを予防・治療を行うことで、何らかの臨床的な予後が改善するので消化。ICUにおける心房細動の予防に関する研究は主にPOAFを対象として行っています。心疾患、心臓手術をのぞいた重症患者におけるAFibの疫学はだいたい5%程度と考えられます。

 Arsenaultらの報告ではシステマティックレビューでPOAFの予防的介入により在院日数の短縮、コスト削減、弱いエビデンスであるが脳卒中リスクの減少につながるとしています。ただ、POAFのエビデンスは残念ながらごく一部を除くと非常に質の低い研究結果の積み重ねだそうです。なので、予防がさまざまなアウトカムの改善につながるとは現時点では言えないとのことです。

 AFOTやPOAFではない通常のAFib患者に関しては心不全患者であろうとなかろうと、抗凝固を行われている限りは洞調律を維持する必要がないことが大規模臨床試験で示されており、同様の結果がPOAFにおいても近年示された。

 

⑥ Rate治療か、Rhysm治療か

AFOTS/POAF以外のAFibにおいて抗凝固がおこわなれている限り心拍数のコントロールをしても洞調律を維持しても心血管死、心不全血栓塞栓症、出血性合併症、ペースメーカー挿入の複合アウトカムに差を認めなかったとのこと。

 

⑦ 脳梗塞リスクの推定

 AFOTSやPOAFの研究結果は短期間の脳梗塞発症率(%)のみを検討しており、点数が上昇するごとに脳梗塞発症率(%)が上昇するのとオリジナルのCHADS2と同等に解釈して抗凝固療法を検討するのは無理があると考えられます。また、長期間のフォローの結果では通常患者群と比較して脳梗塞発症率が低く、通常患者群において行うリスク評価と同等には扱えないと考えられます。したがって短期間の抗凝固における出血性合併症のリスクは高くないと想像して、48時間以上続く場合はCHAD2をつけずに開始しています。

 

⑧ まとめ

 少なくとも会心術後に関しては心房細動の予防・洞調律の維持に努めるべきであると考えています。マグネシウムは安全域が広く、投与に抵抗が低いため血清濃度が必ずしも体内の総量を反映していないことは理解できますが、コスト、実行可能性、安全性などの面からほぼ全例で行われています。

 発症した場合は、必ず12誘導心電図をとり、ICUに限らず新規発症のAFibには虚血性疾患が多くはないが背景にあることがあるため確認します。AFibの治療自体は、電気的除細動かアミオダロン、あるいはその療法で行われています。

 発症直後はリズムコントロールを目指します。特に抗凝固が本来不要な患者では、抗不整脈薬、β遮断薬、電解質の調整などを行った上で、それでも洞調律維持ができずに48時間以上経過した場合やAFibを繰り返す場合はリズムコントロールを断念して抗凝固薬を開始します。抗凝固の終了期間に関しては一定の見解はなく、もし、洞調律に回復しても2ヶ月程度は抗凝固薬を投与して様子をみてその後中止することを考えます

 

いかがだったでしょうか。次回はICUにおけるストレス潰瘍予防の勉強をしたいと考えています。