第113回 失神 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。急性下痢について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日は、失神ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① はじめに

【Step 1】 目撃者を探そう

【Step 2】 本当に失神? ~意識障害と区別しましょう~

【Step 3】 心原性失神ではないか確認しましょう

【Step 4】 出血はないか確認しましょう

【Step 5】 出血以外の起立性低血圧の原因となるものはないか?

【Step 6】 脳虚血がないかを確認しましょう

【Step 7】 神経調節性失神に典型的かを確認しましょう

② 埋込み型心電計 

 本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。

 

113回 失神 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『外来を愉しむ 攻める問診』を参考に記載しています。この本は系統的に問診から鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

外来を愉しむ攻める問診 (Bunkodo Essential & Advanced M)

  • 作者:山中 克郎
  • 出版社/メーカー: 文光堂
  • 発売日: 2012/04/01
  • メディア: 単行本
 

 

① はじめに

 失神を見たら患者の見た目を確認バイタルサインを確認します。脈を確認しながら、病歴を確認しましょう。失神の原因診断及び危険な患者の選別のためには多くの場合は病歴、身体所見、12誘導心電図が最も重要で、中でも病歴は非常に重要です。病歴として1、本当に失神か、2、危険な失神ではないか、3、頻度の高い失神かというように進めていきます。

 

【Step 1】 目撃者を探そう

 失神患者は失神中のことは覚えていません。そのため失神を目撃した人からの情報が診断の大きな助けとなります。救急搬送された時には目撃者の付添をお願いしたり、もしくは電話で確認しましょう。また。普段の状況を知る人からの情報も役に立ちます。始めは患者及び目撃者にどういう状況だったかを自由に話をさせます。そしてそこから診断に必要な的を絞った質問をしていきます。

 

【Step 2】 本当に失神? ~意識障害と区別しましょう~

 失神の定義は

 1,一過性の意識消失

 2,姿勢維持筋緊張の消失(手足や身体がだらーんとしている)

 3,完全に速やか(多くは1~2分)に回復する

 の3つを満たします。多くの場合失神後の状態で診察しますが、そのとき最も重要な始めの質問は「現在の患者はいつもどおりの意識状態ですか」ということです。患者が普段の状態に回復していなければ失神ではなく意識障害として判断する必要があります。また、意識を失っていないのに一見失神と間違えうるものにも注意を払う必要があります。本人に倒れたときに意識を失いましたかと質問をし、失っていないと答えれば、転倒、カタプレキシー、drop attackなどが鑑別となります。

 失神は通常意識がすぐに回復しますが、診察時に完全にいつもどおりであっても回復に時間がかかっている時には失神でない可能性が高いです。この場合は、低血糖、低酸素、過換気、薬物による一過性の意識障害も鑑別に上がりますが、特に痙攣が重要になります。

意識消失前

意識消失(痙攣)時

意識消失中~後

ストレスがある

既視感

幻覚

うわの空

手足や身体の震え

頭を一方向に向ける

変な姿勢

チアノーゼ

上下肢の痙攣

舌咬傷

失禁

筋肉痛

発作後の混乱・意識障害

 

【Step 3】 心原性失神ではないか確認しましょう

 失神だと判断した場合にまず考えることは心原性を除外しましょう。心原性失神のある人は死亡率が高いです。心原性の失神を見逃さないことは最優先となります。特に高齢者、心筋梗塞不整脈、弁膜症、心不全などの心疾患があると心原性である可能性が高くなるので病歴を確認しましょう。また、心血管系の危険因子(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症)の確認も重要です。心原性失神の可能性を高める病歴は以下の通りです。

背景

65歳以上

心疾患の既往

誘因

環境やストレス、疼痛、恐怖などの誘因がない

失神前の状況や症状

労作時発症

臥床時発症

動機

呼吸困難

前駆症状なし

 また、突然死や失神の家族歴も聞いておきましょう。あるいは肥大型心筋症や先天性QT延長症候群なども鑑別にあげましょう。

 

【Step 4】 出血はないか確認しましょう

 立ち上がると血の気が引く感じがし、臥位になると良くなるという病歴があれば起立性低血圧を示唆します。この場合は、出血によるものは緊急内視鏡や緊急手術が必要となるために見逃したくない失神の原因となります。消化性潰瘍や貧血の既往、抗血小板薬や抗凝固薬、鎮痛薬の服用歴、心窩部痛、吐血、血便、黒色便の有無を確認します。また、女性であれば卵巣出血、子宮外妊娠などが出血による失神の原因となり得ます。妊娠の可能性を確認するとともに性器出血や下腹部痛の有無について尋ねる必要があります。

 

【Step 5】 出血以外の起立性低血圧の原因となるものはないか?

 脱水、薬剤性、自立神経障害が原因となることがありこれらがないかを確認します。脱水の原因となりうる発熱や食事水分摂取不足、高温下での労働(運動)、嘔吐、下痢、利尿薬の使用がないかを確認します。起立性低血圧を起こす薬剤はα遮断薬、血管拡張薬、硝酸薬、利尿薬、三環系抗うつ薬、レボドパ、フェノチアジン、アルコール、オピオイドなどがあり、これらを確認します。また、自律神経障害を起こす疾患である、糖尿病神経障害、アルコール性神経障害、パーキンソン病、多系統萎縮症などがあり、これらの既往や症状の確認が必要となります。

 

【Step 6】 脳虚血がないかを確認しましょう

 通常、内頚動脈系(前大脳動脈)による脳虚血では失神になることはまれです。しかし、椎骨脳底動脈系による脳虚血では失神で発症することがありますので注意が必要です。特に心血管系の危険因子(喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症)や心房細動がある患者では後方循環系の虚血を疑わせる複視、めまい、構音障害、失調などがないかを確認しましょう。筋力低下は内頚動脈系でも椎骨動脈系でも起こりうるために確認が必要です。

 

【Step 7】 神経調節性失神に典型的かを確認しましょう

 神経調節性失神は頻度は高いが、予後は良いです。危険な失神の原因が否定された場合、身体所見と心電図を合わせてこれらが否定された上で、神経調節性失神に特徴的な症状があれば診断はほぼ確定的です。神経調節性失神の確率を上げる病歴は以下のとおりです。

背景

誘因

失神前の症状

失神後の症状

最初の失神発作が35歳以下

疼痛

医学的行為(例:点滴の針)

暑い環境

ストレス

頭痛

トイレ使用前後

気分変調やぼんやり感

頭痛

腹部膨満感

しびれやピリピリした感じ

嘔気・嘔吐

発汗

ほてり感

気分変調

 

② 埋込み型心電計

ループ式心電計でも発作が捕まらない場合には,植込み型ループ式心電計を考慮します。特に心原性の可能性がある場合には考慮が必要です。この植込み型ループ式心電計は3年間のデバイス寿命があるため,非常に稀な場合でも発作が捕まる可能性が高く有用です。しかし本医療機器は非常に高額な機器であるため,患者の経済的負担も大きく,また皮下への観血的手技を要します。

ILRの適応

・臨床またはECG所見から不整脈性失神が疑われる患者に対して

  • ハイリスク基準に合致せず,原因不明の再発性失神患者の評価の初期段階で,デバイスの電池寿命内に再発が予想される。(Class I)

ハイリスク患者で包括的な評価でも失神原因を特定できず,あるいは特定の治療法を決定できない。(Class I)

○頻回または外傷の伴う失神歴がある神経反射1生失神患者で,ペースメーカ治療を行なう前に,徐脈の寄与を評価するため,ILRの使用を検討する。(Class Ia)

(臨牀と研究 95(1): 128-134, 2018.)

 

いかがでしたか。次回は『動悸』の勉強を行います。