第112回 急性下痢 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。関節痛について一緒に勉強しました。
med-dis.hatenablog.com

 

本日は、急性下痢ついて一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① 急性下痢のフレームワーク

② 全身疾患

③ 腸管外病変

④ 腸管内病変

⑤ 薬剤・栄養

⑥ 感染性腸炎

 本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。

 

112回 急性下痢 ~どのような鑑別診断をあげますか?~

 

本文内容は主に『総合内科 ただいま診断中! 森川暢著』を参考に記載しています。この本は系統的に問診から鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。

総合内科 ただいま診断中!   フレーム法で、もうコワくない

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  • 作者:森川 暢
  • 出版社/メーカー: 中外医学社
  • 発売日: 2018/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

① 急性下痢のフレームワーク

 まずは全身疾患と腸外病変から考える癖をつけましょう。

 ・全身疾患

 ・腸管外

 ・腸管内

 ・薬剤・栄養

 ・感染性腸炎

 

② 全身疾患

 全身疾患に伴う下痢で見逃してはいけない病気を考えましょう。下痢+ショックバイタル±皮疹では常にアナフィラキシーショックとトキシックショックシンドロームを考えます。ショック指数(心拍数 / 収縮期血圧)>1.0ではショックを疑うべきです。また、下痢+ショックの鑑別では、末梢が冷たくて頚静脈が虚脱していれば消化管出血を考えるますが、頸静脈が虚脱していても末梢が温かいのであればトキシックショックシンドロームアナフィラキシーショック、敗血症を考えます。

 下痢に加え、暑がり、活動性の亢進、体重減少、手指の振戦、発汗を認める場合は甲状腺機能亢進症を疑います。高度な頻脈、高体温、精神症状、心不全甲状腺クリーゼを疑うきっかけとなり得ます。バイタルサインの異常を軽視しないようにしましょう。

 原因不明の下痢に加えて倦怠感が強い場合は副腎不全を考えます。腎不全患者、尿検査の以上を伴う患者の倦怠感を伴う下痢では尿毒症を考えます。口渇・多飲。多尿を伴う下痢では糖尿病を考えます。血液ガス、尿訂正、デキスターでの血糖チェックは迅速に行うことが可能です。下痢・悪心・嘔吐だけでなく、異常な倦怠感や口渇・多飲。多尿が内分泌・代謝性疾患を疑うきっかけとなります。レジオネラ肺炎、マラリアHIV感染症、インフルエンザ、SFTS、リケッチアなどの腸管外感染症でも下痢を認めることがあることに注意をします。特にレジオネラ肺炎では呼吸器症状を伴わない肺炎になりうることに注意します。

 心筋梗塞でも心窩部痛・下痢・悪心をきたしえます。特に血管リスクが高い患者で倦怠感・食欲不振を伴えば心電図の施行は躊躇してはいけません。高齢者、糖尿病、女性では非特異的な心筋梗塞を発症しやすいです。胸痛を伴わない心筋梗塞の死亡率は高いので胸痛がないからといって心筋梗塞を否定してはいけません。

 

③ 腸管外病変

 腸管外病変の炎症が腸管に波及すると下痢をきたしえます。1日に1~2回程度の軟便であれば、まずは腸管外病変から考えます。しかし頻回の水様便であっても、腹痛の性状が腹膜炎らしいのであれば虫垂炎などの腸管外病変を考えます。また、腹痛の性質が明らかな蠕動痛でないのであれば同様に腹痛のフレームワークに準じて原因精査を行うほうが無難です。

 

④ 腸管内病変

・タール便

 下痢の鑑別で消化管出血、特に上部消化管出血を見逃さないことが重要です。上部消化管出血は致死的になり得るからです。問診で便の性状(血便、タール便)は必ず確認するが、高齢者で問診が難しい場合は直腸診を行いましょう。タール便を認めれば上部消化管出血を考えます。血便を認めれば基本的には下部消化管内視鏡の実施を検討しますが、バイタルサインが不安定であれば上部消化管出血の可能性も考えます。

 

・便色変化のない腸管内病変

 下痢が長期間継続している以前にも下痢のエピソードが頻回にある、下痢の回数が少ない時には感染性腸炎よりも炎症性腸疾患を考えます。慢性経過の原因不明の下痢では常に大腸癌も鑑別に入れます。体重減少や慢性の持続した腹痛、貧血を認める場合はなおさらです。便潜血検査は有用で、便潜血が異常であれば原則上下部内視鏡を行うべきですが、感度が高くないので疑わしければ便潜血が陰性でも上下部内視鏡を躊躇すべきではありません。上下部内視鏡検査を実施しても原因が不明であれば好酸球腸炎、全身性エリテマトーデス、消化管ベーチェットなどのまれな疾患も考えます。

 

⑤ 薬剤・栄養

 薬剤性の下痢はありふれた原因であり、薬剤歴の確認を怠ってはいけません。下剤、抗菌薬は特に重要ですが、NSAIDs、PPIジギタリス、テオフィリン、ビグアナイド、抗がん剤も薬剤性下痢の原因として重要です。PPI内服患者の下痢では薬剤性顕微鏡的大腸炎も念頭に置きます。乳糖不耐症も重要な鑑別疾患であり、診断的治療として乳糖を含む食品を避けます。脂肪便・体重減少を認めれば、吸収不良症候群を念頭に置きます。

 

⑥ 感染性腸炎

 感染性腸炎は、院内発症と市中発症(毒素型、小腸型、大腸型)に分けましょう。他のフレームが否定的であり、蠕動痛・頻回の水様便があれば感染性腸炎らしいと言えます。

・院内発症

 入院後3日以降に発症した下痢では便培養は原則として不要です(免疫抑制状態は除く)。院内発症の感染性腸炎の原因としてはまず、Clostridium difficile感染症を考えます。疑えばトキシン検査を施行しますが、陰性であってもCD感染症を否定しきれません。最終的には下痢、発熱、抗菌薬リスク、抗菌薬中止による改善などを総合的に判断する必要がありますが、白血球上昇が目立つことが多いです。

・市中発症

 市中発症感染性腸炎フレームワークは、毒素型、小腸型、大腸型に分けられます。

 毒素型は黄色ブドウ球菌を代表とする毒素によって引き起こされ、激しく嘔吐する割に、腹痛・下痢・発熱には乏しく、症状も比較的早く改善する。潜伏期間は食後6時間以内であり直近の食事歴が大切です。

 小腸型は頻回の嘔吐と大量の水様便・蠕動痛を伴うことが特徴的です。ノロウイルスなどのウイルス性腸炎が代表的な疾患です。潜伏期間は6~48時間であり、小腸型を疑えば2日前までさかのぼって食事歴を確認します。小腸型は大腸の内側に位置しているので、臍周囲や心窩部の痛みで発症することが多いです。解剖を意識しながら触診することが大切です。

 大腸型腸炎は小腸型に比べて嘔吐は基本的には認めず、下痢に関しても少量の頻便で残便感を伴う渋り腹になり高熱を伴います蠕動痛ではなく、腹膜炎を来しうることもあり、虫垂炎との鑑別がときに困難です。小腸よりも外側に圧痛を認めるので、大腸の解剖を意識しながら触診します。食歴が極めて大切であり、思い当たる食事について聞くだけでなく、生肉・生魚・生卵と具体的にリスクのある食事の摂取を聴取します。また、キャンピロバクター腸炎を念頭に2日~1週間前までの焼き鳥、生の鶏肉摂取、生の鶏肉の調理などを具体的に聴取することが重要です。便中グラム染色はキャンピロバクター腸炎の診断に有用ですが、感度は低く検者の技量に左右されます。便中白血球があれば大腸型腸炎らしいと言えますが、陰性であっても否定はできません。注水線と鑑別が難しい大腸型腸炎も存在するので、悩ましければCTを撮像します。

 

⑦ 下痢の治療

・軽症の急性下痢に対して

 整腸薬を投与し経過をみる.止痢薬は作用が強力なもの(腸管蠕動抑制薬)を用いないのが原則である。

 ①ラクトミン製剤(ビオフェルミン)1回1~3g 1日3回

 ②ビフィズス菌製剤(ラックビー微粒)1回1~2g 1日3回

 ③酪酸菌(ミヤBM)細粒1回0.5~19 1日3回

[病原性細菌による感染が疑われる場合]

 ④ベルペリン塩化物水和富配合(フェロペリン)1回2錠  1日3回

[腐敗1生の下痢や発酵性の下痢の場合]

 ⑤天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)1回1~2.5g 1日3~4回

[腸粘膜にびらんや潰瘍がある場合]

 ⑥タンニン酸アルブミン(タンナルビン)1回1g 1日3~4回

〈注意点〉

・抗菌薬を併用している場合は耐性乳酸菌(ビオフェルミンR,ラックビーR)を使用する.

・乳酸菌製剤は,牛乳アレルギーのある患者には控える.

・透析患者には吸着薬(アドソルビン)の使用を慎重にする.

・吸着薬は併用薬の作用を減弱させる可能性があるため服用時間をずらす工夫が必要となる.

・タンニン酸アルブミンは経口鉄剤の吸収を阻害する可能性があるため服用患者には禁忌である.

・中等症の急性下痢に対して

軽症に対する処方に加え,腹痛に対して抗コリン薬を投与する.下痢の回数が多い場合には,腸管蠕動抑制薬の投与を考慮するが,細菌性腸炎には用いないのが原則であり,特に偽膜性腸炎には禁忌である.

 ①ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン)1回10mg 1日3回

 下痢の回数が多い場合には下記を追加する.

 ②ロペラミド塩酸塩(ロペミン1回1mg 1日1~2回

〈注意点〉

・ブチルスコポラミン臭化物は,緑内障前立腺肥大症・重篤な心疾患のある患者に対しては禁忌である.

潰瘍性大腸炎の場合,ロペラミド塩酸塩を用いると,中毒性巨大結腸症の原因となることがあり,禁忌である.

・慢性の下痢に対して

 一般に3週間以上持続するものを慢性下痢として扱う.腸結核やアメーバ性大腸炎などの感染症,炎症性腸疾患,腫瘍肝疾患,薬剤の副作用,過敏性腸症候群などを念頭におき,原因疾患の診断に努める.

(レジデントノート (1344-6746)12巻12号 Page2133-2137(2010.12))

 

いかがでしたか。次回は『失神』の勉強を行います。