第98回 頸部のしこり ~どのような鑑別診断をあげますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。TAFRO症候群、薬剤性血小板減少症について一緒に勉強しました。
本日は、頸部のしこりについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① リンパ節腫脹
② 病歴・身体所見から
③ 時間を味方につけましょう
④ 臨床推論のテクニック
本日はから私が臨床推論の勉強をしたいということもあり、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなく、いろいろな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。
第98回 頸部のしこり ~どのような鑑別診断をあげますか?~
本文内容は主に『イナダも学べばブリになる 林寛之、大西弘高編』を参考に記載しています。この本は研修医向けに書かれた本ですが、臨床推論をこれから勉強したいという先生にも非常に良い本だと思います。もし、興味があれば一読してみてください。
イナダ(研修医)も学べばブリ(指導医)になる: 現場のプロと臨床推論のプロが教える診断能力アップ術
- 作者: 林寛之,大西弘高
- 出版社/メーカー: 南山堂
- 発売日: 2017/08/03
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
① リンパ節腫脹
リンパ節腫脹の鑑別は多岐にわたり、実際はなかなか原因がつかめないことが多いです。鑑別をあげる一つの方法としてCHICAGO(シカゴ)という語呂合わせがあります。しかし、これらの疾患を網羅的に調べていくのではなくまずは、疾患を問診、身体所見、検査からある程度絞り込んでからというのが現実的ではないでしょうか。
C:Cancer (Lymphoma, CLL)
H:Hypersensitivity (Phenytoin)
I:Infection (AIDS, Toxo)
C:Connective tissue disorder (SLE, RA)
A:Atypical lymphoproliferative diagnosis
G:Granulomatous disorder (Sarcoid, Tb)
O:Other unusual causes (Brucellosis)
② 病歴・身体所見から
全身性か局所性かでまずは分けましょう。解剖学的にリンパの流れを考えて触診する必要があります。リンパ節の場合、2領域が腫れている場合は全身性とみなします。前頸部リンパ節腫脹なら局在性の事が多く、咽頭部や歯科領域など局所に感染などの原因がないか検索します。後頚部リンパ節は全身性のことが多く、ウイルス疾患では累々と腫れてくるので、他にも腋窩や鼠径部のリンパ節も触知をみますが、その他の関節炎や皮疹なども探して、既往歴も含めて総合的に判断する必要があります。
痛みと硬さをチェックします。基本的に、急性感染症は痛くて柔らかいリンパ節が累々と腫脹します。可動性がいいのも特徴です。一方、痛みが無く、硬く、一塊となって可動性がない場合は悪性疾患を考える必要があります。波動を伴い自壊すると結核や非定型抗酸菌を考慮します。
リンパ節腫脹は1cmを超えていれば(小児では1.5 cm)陽性とします。鎖骨上、腸骨、滑車上リンパ節は通常リンパ節を触れない部位なので、ここではリンパ節が触れれば小さくても異常ととります。鎖骨上リンパ節はVirchow転移といって有名です。リンパ節もかなり大きくなると悪性疾患や、結核、サルコイドーシス、非定型抗酸菌症などを考慮します。
既往歴(膠原病、悪性疾患)、性交歴(HIV感染症のリスク)、環境暴露(登山など)、海外渡航歴、薬剤、家族歴などの評価も忘れないようにしたいです。検査を行うにあたって検査の項目を減らすことができると思います。
③ 時間を味方につけましょう
リンパ節腫脹が数週から数ヶ月も続き、なかなか悪性疾患との鑑別がつかない事もあるのは事実です。菊池病、非定型抗酸菌、猫ひっかき病、トキソプラズマ、サルコイドーシス、川崎病などは鑑別を悩ませる代表的な疾患です。画像診断に加えて、リンパ節生検を考慮していきます。2週間以上経過したものはやはり悪性疾患を考慮して精査が必要となりますので専門医に適切なタイミングでコンサルトしましょう。プライマリ・ケア領域のリンパ節腫脹では、原因不明の場合10%が専門医へ対診し、そのうち1~2%が悪性疾患だといいます。
④ 臨床推論のテクニック
High yieldかLow yieldか
訴えが得るものが多いか少ないかに関して考える。High yieldとは鑑別診断を狭めやすい訴え、Low yieldとは狭めにくい場合をいいます。例えば発熱+頸部リンパ節腫脹という主訴があった場合、発熱という情報は鑑別すべき疾患が多くlow yieldな情報と言えます。それに比較するとリンパ節腫脹という主訴は鑑別は多岐に渡るものの、発熱に比較すると鑑別を絞りやすく比較的High yieldと言えます。この、考えを意識しながら鑑別を進めましょう。
意味限定詞 (semantic qualifier: SQ)
リンパ節腫脹が全身的か限局的といった情報はSQに当たります。SQによって鑑別すべき疾患が狭まります。SQは閉じられた質問を用いるのが有効です。
いかがでしたか。次回は『バイタルサイン、腹部診察、せん妄』の勉強を行います。