第99回 バイタルサイン、腹部診察、せん妄 ~あなたは身体所見をどこまで取れますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。頸部のしこりについて一緒に勉強しました。
本日は、バイタルサインと腹部診察について一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① バイタルサイン
② 腹部の診察
③ せん妄
本日は身体所見の勉強をしましょう。特に診察である程度の疾患を絞り込めれば必要な検査も少なくできます。また、早急に対処しなければならない所見を即座に判断し専門医にコンサルトすることが可能となります。できるだけ身体所見から早く判断できるように勉強していきましょう。
第99回 バイタルサイン、腹部診察、せん妄 ~あなたは身体所見をどこまで取れますか?~
本文内容は主に『もうダマされない 身体診察 上田剛士著』を参考に記載しています。この本は看護師さん向けに書かれた本ですが、身体所見をこれから勉強したいという先生にも非常に良い本だと思います。もし、興味があれば一読してみてください。
Dr.上田の もうダマされない身体診察: バイタルサインのみかたとフィジカルアセスメント (メディカのセミナー濃縮ライブシリーズ)
- 作者: 上田剛士
- 出版社/メーカー: メディカ出版
- 発売日: 2019/09/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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① バイタルサイン
バイタルサインとは、古典的には血圧、脈拍数、呼吸数、体温の4つです。その他、含むことがある項目として、意識、SpO2、痛み、尿量です。
ここでショックについてですが、ショックは『急激な全身的な組織血液灌流低下により細胞障害をきたすことを示します。』のように定義されています。しかし、実際の患者さんに使用するには指標が難しいため、収縮期血圧≦90 mmHgが最も簡便な指標ですが、普段の血圧より30 mmHg低い場合も同様に扱います。しかし、これだけでなくショックの5P『蒼白、脱力、冷感、脈拍触知不能、呼吸不全』も確認しましょう。
血圧に関してですが60-70-80ルールは実際の血圧との検討により、撓骨動脈は約80mmHg、大腿動脈触知は約70 mmHgですが、頸動脈拍動触知では50mmHgという結果になっています。ショックを判断する場合には血圧のみを観察するのではなく、脈拍とともに図示し、脈拍と血圧がクロスするサインがみられた時点ですぐにショックを疑い対処を進めて行く必要があります。
呼吸数の重要性はいろいろな本にも書かれていますのでご存知の方も多いかと思います。呼吸数は非常に重要で肺炎患者の診断に有用であることが言われています。また、抗菌薬の効果判定などにも使用できるとのことです。ただし、高齢者の呼吸では呼吸数が平常でも多いことがあります。呼吸が浅く早いことがあり健康な65歳以上の高齢者では呼吸数が平均19.6会/分と言われます。注意してください。高齢者が呼吸数が多い理由の一つとして、亀背で胸郭がうまく動かなくなっていることが考えられます。普段の呼吸数と比較するようにしましょう。
② 腹部の診察
腹部の診察では「視聴打触」の順に行いましょう。打診や触診のあとではお腹がゴロゴロ動き出してしまいますので必ず触る前に聴診をしましょう。また、視診というのはすごく大事です。腹部に手術痕があるかないかで腸閉塞の検査前確率は上がります。また、腹部が膨隆していることや、お腹がうねうねとちょうが蠕動している様子がみられれば腸閉塞の可能性を高くする所見として特異度が高いです。
腹膜炎を確認するときの身体所見では筋性防御という言葉を聞いたことがあると思います。でも患者さんがただ力を入れているだけかと思うこともあり判断に悩むことはないでしょうか。実際に筋性防御はお腹を押したときに力を入れてお腹を揺らさないように頑張るということですので、患者さんが力を入れていても筋性防御ととっていいです。また、腹部を押したときよりも離すときが痛いのも腹膜炎の症状です。これを反跳痛というのは皆さんもよくご存知かと思います。あとは打診するときに痛むタッピングペインもよくみられます。変法として本文では腹部全体を揺らす方法が提案されています。腹部全体を均等に揺すってどこが一番痛いかを聞くと、腹膜刺激徴候も確認できますし、痛みの場所もわかります。腹部全体を揺する方法としていかの方法が提案されています。
・咳をする
・つま先立ちをして踵から落ちる
・踵落とし試験(つま先立ちしてから踵から落ちる)
・スピードバンプで痛いかどうか見てもらう
・ストレッチャー移動時の段差での痛がり方
これらを確認することでより早く腹膜刺激徴候を確認し外科にコンサルトできます。
肝疾患を疑って身体診察を取る時には、浮腫、黄疸、腹水、脾腫、肝性脳症、エストロゲンの上昇などいろいろな身体症状が出ます。この中でも一番早く生じるのはエストロゲンの上昇だそうです。エストロゲンは血管を拡張させるため、赤ら顔になり、頬も赤くなります。また、肝性脳症ではでははばたき振戦がみられることも有名ですね。羽ばたき振戦は握手でもみられます。しっかり握ってもらっても力が入ったり抜けたりします。羽ばたき振戦はCO2ナルコーシスでもみられます
尿閉を聴性打診で確認することができます。恥骨上聴性打診の方法は、まず恥骨上に聴診器を当てます。臍から順に恥骨に向かって打診をし、音が変化した点を確認後、その場所から恥骨までの距離を測ります。6cmならだいたい200mL(尿意を感じる量)です。簡易な指標として膜型の聴診器では長径が5-5.5 cmですのでそれよりも1横指上にあればだいたい200mLです。そして9cmを超えると500mLです。だいたい聴診器2つ分を超えるとかなり尿が溜まっているということになります。
③ せん妄
せん妄の身体診察として、虫が見えるかどうかというのがあります。手で中を掴む動作は撮空模床(さっくうもしょう)、無目的に寝具や衣服をつまむ動作は捜衣模床(そういもしょう)と言います。これらがみられたら、せん妄を強く示唆します。特異度98%です。せん妄での検査では頭蓋内病変の検査はほぼ必要ないと知られています。単なるせん妄を疑う5か条は、①認知症、②夕暮れ・日没、③体温とSpO2は正常、④血圧高め・脈早め、⑤冷や汗・冷感なしです。それぞれ順にみてみましょう。
1つ目ですが、せん妄が起こる人は普段から認知機能が低下している人です。そのような人が環境が急に変わるとどこにいるのかわからなくなって、家に帰ると言い出します。お薬はベンゾジアゼピンはせん妄の方にはだめです。2つ目ですが発症時間は夕暮れか日没時であることが普通です。朝からせん妄っておかしいですね。3つ目ですがサチュレーションが低ければ、苦しいので興奮します。これはせん妄とは別の症状ですね。4つ目ですが、一般的なせん妄は興奮しているので血圧が高く、脈も速いです。これが血圧や脈が低めであれば心筋梗塞などがあり苦しくてもがいている可能性があります。5つ目の冷汗と振戦がないことですが、これらの症状があれば、緊急事態ですのでせん妄を疑っている場合ではありません。
いかがでしたか。次回は『めまい』の勉強を行います。