第96回 HTLVキャリア、CAR-T細胞療法 ~鑑別診断と治療について考えよう~

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 こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。血液がん患者の緩和医療、病的骨折の予防と疼痛管理について一緒に勉強しました。

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 本日は、HTLVキャリア、CAR-T細胞療法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

① HTLVキャリア

② CAR-T細胞療法

 

 本日は血液内科疾患について勉強してみましょう。血液内科疾患は専門性が高く手を出しにくいと考えがちですが、実際どのような疾患を鑑別にあげ、治療を行っていけばよいか考えておく必要があると思います。今回は第十一弾として血液がん患者の緩和医療、病的骨折の予防と疼痛管理について勉強しましょう。

 

96回 HTLVキャリア、CAR-T細胞療法 ~鑑別診断と治療について考えよう~

 

本文内容は主に『レジデントのための血液教室 宮川義隆著』を参考に記載しています。この本はレジデント向けに書かれていますが、なんといっても読みやすいです。血液疾患の勉強の最初のとっかかりにしてみてはいかがでしょう。

レジデントのための血液教室〈ベストティーチャーに教わる全6章〉

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① HTLVキャリア

 HTLV-1はhuman T cell leukemia virus(ヒトT細胞白血病ウイルス)の名前の通り、白血病の原因ウイルスです。リンパ系腫瘍はB細胞由来が多いですが、九州出身者ではT細胞性が多く、その原因ウイルスとして発見されました。キャリアのうち約5%が成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)を発症します。感染経路は母乳、血液、性行為です。いずれもHTLV-1が感染したリンパ球により感染が成立します。

・診察のポイント

 HTLV-1はキャリアは無症状であり身体所見はありません。ATLLを発症すると、発熱、リンパ節腫大、脾臓、重症例では高カルシウム血症による意識障害を伴いますHTLV-1関連脊髄症では歩行障害、膀胱直腸障害を認めますHTLV-1キャリアの0.1%にブドウ膜炎を合併し、目のかすみ、飛蚊症を自覚することもあります。

・検査

 HTLV-1抗体が陽性となります。ATLLを発症すると末梢血中に異型リンパ球(花びら型の核を持つフラワー細胞)、sIL-2R高値、リンパ節腫大を認めます。

・感染予防

 母乳保育を続けると約20%が感染しますが、断乳により感染率は3%に低下します。最近の研究で、授乳期間を3ヶ月以内に抑える、あるいは母乳を24時間以上凍結することで感染率を抑える工夫がなされています。ただしいずれの方法も100%の感染予防は難しくHTLV-1に詳しい医師、助産師と相談する必要があります。

 性行為感染は、主に精液中に含まれる感染リンパ球を介して女性に感染します。コンドームの利用は感染予防に有効です。妊娠を希望する場合は通常の性行為で良いとされます。感染から発症までの時間が長く、成人での感染によりATLLを発症した症例がないためです。輸血製剤はHTLV-1検査がされており、原則として感染の心配はありません。

・鑑別診断

 T細胞性の悪性リンパ腫はATLLを疑い、出身地、家族歴、過去にHTLV-1感染を指摘されたかを問診します。

・治療

 現在はHTLV-1キャリアに対する治療法はなく、感染予防が重要です。将来的にはHTLV-1キャリアも治療できる時代が来ることを願います。

 

② CAR-T細胞療法

 従来のがんの標準的治療法である手術、抗がん剤放射線に加えて新たにCAR-T細胞療法が登場しました。CAR-T細胞療法とは、患者由来のT細胞を工場で遺伝子改変して患者に戻すがん免疫療法です。CAR-T細胞はがん細胞に特異的に攻撃し、急性リンパ芽球性白血病に対して造血幹細胞移植に匹敵する高い治療効果を示します。2019年に25歳以下の急性リンパ芽球性白血病とびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫のいずれも難治例に対して承認されています。

・CAR-T細胞とは

 キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)は、抗体の抗原結合部位と細胞活性化レセプターの細胞内ドメインを遺伝子組み換え技術により結合させたものです。この遺伝子をT細胞に組み込んだのがCAR-T細胞です。2019年に日本で承認されたチサゲンレクルユーセル(キムリア)は、CD19抗原に対するCAR-T細胞です。CAR-T細胞は、腫瘍細胞を特異的に認識すると活性化し、パーフォリンを分泌して細胞死(アポトーシス)を誘導します。患者の体内で増殖する機能が与えられているため従来の化学療法と異なり1回の投与で済みます。

・CAR-T細胞療法の原理

 キムリアは、患者から白血病アフェレーシスという特殊な血液ろ過プロセスによってTリンパ球を取り出し、米国ニュージャージー州にある製薬企業の製造施設でCD19抗原に対するCAR-T細胞として製造されます。CD19陽性の急性リンパ芽球性白血病の約8割、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の約6割に有効ですが、一部は再発します。治療前にシクロフォスファミドとフルダラビンを投与して体内のリンパ球を減らすことにより治療効果が高まります。主な副作用として、投与時にサイトカイン放出症候群が起きやすいが、IL-6レセプター抗体(トシリズマブ)が有効です。

・免疫チェックポイント阻害薬との違い

 がん細胞はTリンパ球をリンパ球表面のPD-1レセプターを刺激して、リンパ球の活性化を抑えることより攻撃から逃れています。ニボルマブオプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)を代表とする免疫チェックポイント阻害薬は、Tリンパ球上のPD-1に対する抗体医薬品です。

・CAR-T細胞療法の応用

 固形がんに対する有効性は残念ながら低いです。しかし、他のCAR-T細胞療法では固形がんに対する治療方法の臨床研究がなされています。今後の研究開発に期待しましょう。

 CARTの開発状況 ;https://answers.ten-navi.com/pharmanews/16581/

 

いかがでしたか。次回は『血液がん患者の緩和医療、病的骨折の予防と疼痛管理』の勉強を行います。