第82回 CIRCI ~CIRICってなに?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は副腎クリーゼについて一緒に勉強しました。
本日は、CIRCIについて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① CIRCI (critical illness-related corticosteroid insufficiency;相対的副腎不全)
1, CIRCIとは
2, CIRCIの診断
3, 敗血症でのステロイド治療1
4, 敗血症でのステロイド治療2
相対的副腎不全という名前を聞いたことがあるでしょうか?集中治療室で使われる言葉だそうですが、どういったときにこのような状態になるのでしょうか。また、相対的副腎不全になった場合になにか特別な治療が必要でしょうか?今回は相対的副腎不全についてです。一緒に勉強していきましょう。
第82回 CIRCI ~CIRICってなに?~
本文内容は主に『Dr竜馬のやさしくわかる集中治療 内分泌・消化器編』を参考に記載しています。田中竜馬先生の教科書は非常に読みやすく明快な本が多くいつも出版されるとすぐに手を付けてしまします。救急医療やICU管理の教科書がたくさん出ていますので是非読んでみてください。
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① CIRCI (critical illness-related corticosteroid insufficiency;相対的副腎不全)
1、CIRCIとは
生体に重症疾患のようなストレスがかかると、視床下部-下垂体-副腎系が活性化されて、糖質コルチコイドであるコルチゾールの産生が増えると考えられています。コルチゾールが上昇すると過度の炎症を防ぎ、血糖を高めてエネルギーを供給し、血管のカテコラミンへの反応を増強することとになります。いずれも急性期に生体を守るための反応です。これらによって正常の日内変動は失われます。
重症患者ではコルチゾールが高すぎるのも低すぎるのも死亡率上昇と相関します。重症疾患があるにもかかわらずコルチゾールが適切に高くなっていない状態をCIRCIと呼びます。以前は相対的副腎不全と呼ばれていました。CIRCIでは典型的な副腎不全の症状は出ません。
2、CIRCIの診断
CIRCIの診断方法としてランダム総コルチゾール値があります。ランダムというのは任意の時間で採血したという意味です。CIRCIではランダム総コルチゾールの閾値として10~34μg/dLの様々な値が使われてきましたがまだ一致した意見はないとのこと。
そこで、副腎クリーゼでも登場したACTH刺激試験についても検討されています。この場合は投与前から総コルチゾールがすでに上昇していることが多いので投与後の絶対値ではなくACTH刺激による総コルチゾール値上昇をみて評価します。ただこの評価方法には次のような問題点が指摘されています。まず、ACTHの投与量が250μgと生理的な量を遥かに超えているという点です。こちらに関しては1μgでの刺激のほうがよいのではないかという報告も見られます。また、ACTH試験の結果のばらつきについても指摘されています。同じ患者でACTH試験を行ったとしてもそのたびに結果が異なることが指摘されています。
総コルチゾール測定についても問題点が指摘されています。コルチゾールは正常の状態では90%以上が蛋白結合しています。活性があるのは蛋白に結合していない遊離のコルチゾールであり結合しているものは活性がありません。重症患者では結合する蛋白の量が減少するため、遊離コルチゾールが上昇すると言われています。そのため、現在測定している総コルチゾールの数値は活性のあるコルチゾールの数値を反映していないと考えられます。
つまり最終的な結論としてCIRCIの確立された診断法はないということになります。
3,敗血症でのステロイド治療1
CIRCIについて診断の定義が確立していないのは先ほどお話しましたがステロイド治療についても未だ結論はついていません。1980年代まではステロイドというとステロイドパルスのような大量投与を行っていました。パルスの効果を検証したRCTでは死亡率を改善しないという結果になっています。現在では敗血症に対して大用量のステロイドを使用することはありません。
生理的ストレス用量のステロイドについては1990年代になってから検証され始めました。ヒドロコルチゾンを1日200~300 mgという量でした。こちらについてはAnnane研究と、CORTICUSという2つの有名なRCT試験があります。Annane研究では敗血症性ショックの患者さん300例に対する研究でACTH試験(250μg)でCIRCIの診断をして、その後にステロイド補充したという試験です。こちらの試験結果ではCIRCIと診断されてステロイドを投与された群はされなかった群に比較して死亡率が有意に低いという結果になっています。それと比較しCORTICUS試験では敗血症性ショックの患者さん499例に対してACTH刺激試験をした後にステロイドを投与するといったよく似たプロトコルで行われています。こちらの研究結果ではプラセボと投与群で差はなかったという結果になっています。ただし、有害事象を確認するとステロイド投与群で新たな幹線が起こる頻度が高いという結果になっています。結局2つの試験では死亡率に関しては両者で見解が一致していませんが、唯一見解が一致している点としてショックからの離脱が早まるということがあります。
Surviving Sepsis Campaignガイドライン2016では輸液と昇圧薬で血行動態を維持できる時にはステロイドは使用しないことを提案する。血行動態を維持できないのであればヒドロコルチゾンを1日200 mgを静注投与することを提案する(エビデンスの質が低く、弱い推奨)としています。
敗血症性ショックに対する「生理的ストレス用量」ステロイドの効果はまだ不明です。
結論:敗血症に対して大容量ステロイドは無効
輸液と昇圧薬で血行動態を保てないときに使用する
4,敗血症でのステロイド治療2
敗血症性ショックに対するステロイド治療でのフルドロコルチゾンの併用についてはCOIITSSがフランスの他施設試験で研究されておりフルドロコルチゾンの投与の有無に関わらず死亡率に有意な低下を認めませんでした。またフルドロコルチゾン投与群では感染症の合併が高いという結果になっています。このため敗血症性ショックには、フルドロコルチゾンを併用しないことで結論づいています。
ステロイドの投与期間と漸減の必要性ですが、200~300 mg/日(50 mgを6時間おき、または100 mgを8時間おき)というのが敗血症性ショックに使われるヒドロコルチゾン投与の相場です。ステロイドの投与日数は未だ決まっておらずショックから離脱してすぐに中止していいのか、また漸減の必要があるかについては結論が出ていません。
重症敗血症患者に対するステロイド投与についてもRCT試験が行われています。HYPRESS試験がドイツの多施設でおこなわれ、重症敗血症の患者353名に対してヒドロコルチゾンを投与するといったデザインとなっています。その結果、敗血症性ショックの発症率に有意差は有りませんでした。つまり、敗血症性ショックの発症を予防しないという結論でした。
いかがでしたか。次回は『食道静脈瘤』の勉強を行います。