第63回 下痢 ~下痢について再度考えてみましょう~

f:id:Med-Dis:20190901073042j:plain

こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。危険な患者の対処法について一緒に勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

本日も症候学で、下痢について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 下痢を深く考える

   ・水様便

   ・脂肪便、消化不良便

   ・ただの軟便は保留

   ・粘液便、粘血便

   ・色に注目

   ・時間経過に着目する

 ② クロストリディオイデス(クロストリジウム)ディフィシル感染症

外来で下痢の患者さんに会うことは多いですね。ただ、下痢とは一概に言っても、それが本当の下痢かどうか判別をしていますか。今回は知っているようで知らない下痢について勉強してみましょう。

 

63回 下痢 ~下痢について再度考えてみましょう~

 

本文内容は主に『Dr. 林の当直裏御法度 ER問題解決の極上 Tips90』を参考に記載しています。もちろんみなさんもご存じの方がほとんどと思いますDr. 林の名著ですね。研修医の先生はぜひ手にとってみてください。

Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips90 第2版

Dr.林の当直裏御法度―ER問題解決の極上Tips90 第2版

 

 ① 下痢を深く考える

・水様便

 胃腸炎や小腸型腸炎に代表されるような本物の水様下痢は教科書的には「米のとぎ汁のよう」と表現されるが、意外にピンとこないです。患者に話すときは「水道の蛇口をひねったように、ジャーっと、まるでおしっこのような便が出ますか?」と聞きましょう。

 腸管に病変の主座がある場合には水様便がひっきりなしに何度も出るので、それを確認します。ただし、ウイルス性腸炎では最初に嘔気・嘔吐が主体で数時間後に水様下痢になってくるので、最初のうちは簡単に水様下痢にならないことも念頭に入れておきましょう。

 大腸型(多くは粘液便)であっても、カンピロバクターやエルシニアは右側結腸に病変の主座があり、小腸から水のような便がすぐに送られてくるため水様便になります。

 

・脂肪便、消化不良便

 脂肪便の場合は「ブビビビビビィ・・・」という音とともに便器周辺に飛び散らすような便になります。脂っこい食事やタンパク質の多い食事をした後にこのような便になることを確認する。

 特発性脂肪性下痢症(Wipple病)は日本では極めてまれで、グラム陽性桿菌Tropheryma whippleiによる。消化器症状のほか、関節症状、中枢神経症状、眼症状と多彩な症状を呈し、抗菌薬で治癒します。

 

・ただの軟便は保留

 腹痛を来す疾患、腸管の蠕動亢進を来す疾患でも軟便は数回出ることがあります。虫垂炎や異所性妊娠、卵巣捻転、精巣捻転、憩室炎などが上がります。心筋梗塞でさえ嘔吐を来すうちに軟便が出ることがあります。嘔吐を呈する疾患は軟便が出るので、2~3回程度の軟便は下痢から疾患を絞るのではなく、そのほかの症状から疾患を考えていきましょう。

 高齢者や向精神薬などで薬剤性下痢になりやすい患者で、水様~泥状便でも少量が腹痛に伴い繰り返して出てくるような場合、頑固な便秘が原因のことがあります。頑固な便秘の場合は大きな便塊が直腸にありその隙間を通れる水溶性の便のみが排出されるということが起こります。

 

・粘液便、粘血便

 大腸型細菌性腸炎の多くは粘血便であり、1回の量は決して多くないです。ただし、まずは大腸にある便が出ますので最初は結構ドパッと便が出てきます。その後、鼻水のような便がネロネロと頻回に、しかし1回の量は少量ずつできます。これをしっかり確認しましょう。血液が混じっているかも確認してもらいましょう。

 入院3日目以降の下痢なら偽膜性腸炎を考慮しましょう。

 

・色に注目

 タール便であっても患者は下痢といいます。必ず確認しましょう。多くは上部消化管出血が原因ですが、多くは上部消化管出血が原因です。ただし鉄剤内服中、イカ墨、赤ワイン、岩のりを食べた後は黒っぽい便になりますので食事内容も確認しましょう。 真っ赤な血便の場合は患者が自己申告してくれることが多いです。排便後にボトッと赤い血が出るのはほとんど内痔核によることが多いですが、便がまんべんなく赤ければ血便、潜血便の場合は多くは大腸からの出血を考えますが、ここで必ず除外しなければならないのは急速に上部消化管からの出血を除外しておく必要があります。まずはNGチューブを入れましょう

 下部消化管からの出血はそれほど緊急性は高くないです。腹痛を伴わない大量の下血は憩室症のことが多いです。また、まれですが小腸腫瘍の場合は血管に富むので結構下血がみられることがあります

 

・時間経過に着目する

 腸管の蠕動が早まれば、今腸管にある便が軟便になって出るだけです。これを素直に下痢と解釈してはいけないです。腸閉塞だって腸の蠕動により、間欠的腹痛に伴い最初はドパッと下痢が出るとのこと。

 明け方受診の若い女性や小児に多いパターンは便秘が多く、便秘も症状は腸閉塞と同じで間欠的腹痛でその後ググっと硬便、または兎糞状便が出て、その後ドパッと軟便~少し形のある便が混じった水様便となります。その後腹痛は改善します。

 慢性経過なら、炎症性腸疾患や過敏性腸症、吸収不良症候群、乳糖不耐症、薬剤性下痢、好酸球性胃腸症、スプルー、電解質異常、副腎不全、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、膠原病、糖尿病性腸症、腹部アンギーナ、感染症結核、梅毒、HIV、ライム病、原虫、そのほか細菌・ウイルスなど)、アルコール、低栄養、放射線腸炎などを鑑別していきます。

 

② クロストリディオイデス(クロストリジウム)ディフィシル感染症

 CDIは微生物検査だけでは診断することは難しく、臨床的な状況も踏まえる必要があります。これまであh、様々な臨床的な状況も踏まえる必要があります。これまでは、様々な検査法があったことや十分に病態が理解されていなかったこともあり、診断が混乱していた側面がありました。近年になって検査法の質の評価が進み,定着と感染を区別する考えが確立してきたこともあり、「Clostridioides(Clostridium) difficile 感染症診療ガイドライン」ならびに日本臨床微生物学会では,通常診療の場合とアウトブレイクの場合に分けて診断フローチャートを示しています。

 CDIと診断するためには,なによりもまず下痢症状を伴うことが必須である。これは,腸管に定着していることがあるC. difficile を,CDI の原因として解釈しないようにするため重要である。ただし,下痢の判断の際にも評価者の主観によるばらつきが出やすいため,例えばブリストル便形状スケールのように便の性状をイラスト化した指標を用いて客観性が保つことが望ましい。ブリストル便形状スケールの場合には,下痢に該当するタイプ5以上をCDI の検査対象とする。下痢症状があるCDIを疑う患者には,糞便検体を用いたイムノクロマト法での検出が標準的に行われる。診断フローチャートは通常診療の場合とアウトブレイクの場合を想定して作成されている。

(薬事 (0016-5980)61巻5号 Page775-779(2019.04))

フローチャートhttp://www.jscm.org/m-info/182.html

 

次回は『マイナーエマージェンシー』の勉強を行います。