第55回 酸素療法① ~とりあえず、酸素療法は卒業します!~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。NPPVについて一緒に勉強しました。

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 本日は酸素療法について一緒に勉強していきましょう。

勉強前の問題

 ① 酸素療法の勉強に入る前に

 ② シンプルマスクについて

 ③ 鼻カニューラ(ネーザルカニューラ)

 ④ リザーバー付マスク

救急外来で呼吸困難を訴える患者さんは多いかと思います。ただ、なんとなく酸素療法をとして酸素マスクなどの使用していないでしょうか。今回は皆さんが当たり前のように使っている酸素療法について勉強してみましょう。実際に勉強することでなんとなくから、自信を持って行う酸素療法に意識を変革しましょう。

 

55回 酸素療法① ~とりあえず、酸素療法は卒業します!~

 

本文内容は主に『こういうことだったのか!! 酸素療法 小尾口邦彦 著』を参考に記載しています。日常臨床で使われる酸素療法についてわかりやすく解説されています。すごくわかりやすいのでもし、興味があれば手に取ってみてください。

こういうことだったのか!! 酸素療法

こういうことだったのか!! 酸素療法

 

① 酸素療法の勉強に入る前に

 自発呼吸のスピードは、ヒトは1秒で息を吸い2~3秒では吐きます。呼吸数で言えばこの計算で行くと15~20/分で正常値ですね。その時の吸気スピードが500mL/秒(30000 mL/分=30 L/分)です。私達が医療で使っている酸素マスクの流量は最大で10L/分~15L/分です。つまりヒトの半分程度の量しか補充できないということです。こちらの吸気スピードが500mL/秒(30000 mL/分=30 L/分)という数字はすごく大事なので覚えておきましょう。

 

② シンプルマスクについて

 シンプルマスクの吸入に関しては4L以下および9L以上では使用しないというような表をみることが多いと思います。以下のような表ですね。

酸素流量(L/分)

吸入酸素濃度(%)

低いゾーン

使うべきではない理由がある

5~6

40

6~7

50

7~8

60

高いゾーン

使うべきではない理由がある or

他に使うべきデバイスがある

 この表の使用しないゾーンはなぜ使用しないか答えられますか。

 また、シンプルマスクは上記の表のように酸素流量を5~6L流せば40%もの酸素が流れると説明されていることが多いです。実際にそれだけの酸素の吸入が起きているのでしょうか。

 シンプルマスクの理論値と実臨床については乖離があると言われています。シンプルマスク容量180 mLをそのままリザーバーと捉えることに無理があると考えます。リザーバー機能を想定せずシュミレーションしてみましょう。

 一回換気量 500 mL, 8L/分(=133 mL/秒)で酸素を流したとき (呼気時間1秒)

 室内空気を367 mL吸い込みます。その中には21%酸素、つまり77mL含むので、133+77で計210 mLの酸素を吸い込みます。つまり500mL中210mLの酸素ですので吸入濃度は約40%酸素です。

高流量酸素の場合

 次に15L/分(=250mL/秒)で計算してみましょう。

 室内空気を250 mL吸い込みます。その中には21%酸素、つまり50mL含むので、250+50で計300 mLの酸素を吸い込みます。つまり500mL中300mLの酸素ですので吸入濃度は約60%酸素です。かなりの酸素量が無駄になっていると言えます。高濃度酸素を投与したい場合はリザーバー付き酸素を用います。

 次に4L/分以下の流量を考えてみましょう。シンプルマスクには流量5L/分以上で流さなければならないルールがあります。その理由として、シンプルマスクをリザーバーとしてとらえた場合に患者の呼気はシンプルマスクに貯まります。その呼気を再呼吸させないために180 mLの呼気を吹き飛ばす方法が必要です。もし、呼気が2秒であるとすると、90 mL/秒で酸素を流せば洗い流せることになります。つまり酸素を5400mL/分で流す、L以上でないと呼吸を再呼吸してしまいます。

 実際の測定ではシンプルマスクにおいても再呼吸は5L/分までわずかながら再呼吸があります。しかし正常呼吸でもすべての呼吸を吐き出すことはできず、解剖学的死腔において再呼吸が常に起こっています。COPDのようなCO2が貯まるのが気になるような病態でない限り無視できるような量であると考えます。

 ガイドライン上は酸素流量4L/分以下での使用をしてはいけないことは、常識ですので守りましょう。ただし、必ず守らなければならないものではなく、必要に応じて使用可能であることも認識しましょう。

ポイント

 酸素濃度は吸入酸素濃度表ほど高くならない

 再呼吸を防ぐために酸素流量5L/分以上に設定する

 酸素流量5L/分以上に設定しなければならないので低濃度酸素設定はできない

 9L/分以上の酸素流量を必要とするときは、他のデバイスを考慮する

 

③ 鼻カニューラ(ネーザルカニューラ)

 鼻カニューラの吸入酸素濃度は酸素流量1Lあたり4%増えるので、空気の酸素濃度を20%とし(正確には21%)、20+4✕酸素流量と簡単に覚えることができます。

 カニューラの吸入酸素濃度

酸素流量(L/分)

吸入酸素濃度(%)

1

24

2

28

3

32

4

36

5

40

 鼻カニューラの吸入酸素濃度表に6L/分異状がない理由を考えてみましょう。理由は2つあって、一つは6L/分異常はあまり効率が上がらないということです。またシュミレーションしてみましょう。

 鼻カニューラ酸素濃度 5L/分、一回換気量 500 mL、吸気時間1秒、呼気時間2秒

 鼻腔のスペースを50 mLとしリザーバーとして捉えると、呼気時間2秒の間に166 mLの酸素が流れ、鼻腔に50mLの酸素が蓄えられます。吸気時間1秒の間に83 mLの酸素が投与され、残りは鼻腔内の50mLと外からの空気367 mL (=500-83-50)が加わります。空気中の酸素は21%で77 mLですので計210mLの酸素を吸います。1回換気量500 mL中210 mLの酸素なので約42%になりますね。同様の計算をすると8L/分で約50%、10L/分で56%ととなり酸素濃度の上昇率が悪くなります。これが鼻カニューラで酸素濃度を高濃度にするよりシンプルマスクに移行したほうがよいと考える所以ですね。

 もう一つの理由は5L/分程度を超えると鼻粘膜への刺激が強すぎるということがあります。どちらかというとこちらのことが原因として大きいと考えられます。実際に供給される酸素の湿度は0%です。酸素療法は通常数時間から数日行われるため、鼻粘膜が乾燥し痛みなどの不快感を引き起こします。

 鼻カニューラは以下の使用法において注意喚起されます。

 COPDなど高濃度酸素投与によりCO2ナルコーシスのリスクが高い患者に対してSpO2が90%程度となるように鼻カニューラで1~2L/分程度で調節投与する。ということが言われます。ただ、患者の呼吸状態により吸入酸素濃度が容易に変化するのが低流量システムであり、変動は致し方無いと考えられます。

Apneic oxygenation

 気管挿管手技を行っている間に筋弛緩薬や鎮静薬のしようにより自発呼吸が減弱・停止した患者に対して、鼻カニューラを酸素流量10~15 L/分で使用するのがApneic oxygenationとう方法です。

ポイント

 酸素流量 5L/分まではシンプルマスクを上回る酸素濃度を得られる

 酸素流量4L/分程度まで加湿は意味を持たない

 COPDの患者への使用は必ずしも最適ではない

 Apneic oxygenationも活用したい

 

④ リザーバー付マスク

 シンプルマスクの最低流量は5L/分でしたが、リザーバー付マスクは6L/分とさらに高いです。以下に酸素流量と吸入酸素濃度の表を記します。

ポイント

 リザーバーが伸縮すれば高濃度酸素を投与できる

 リザーバーが伸縮しなければシンプルマスクに近いパフォーマンス

 近年発売されるフィッテイングが良い製品を用いれば高濃度酸素投与される可能性がある

 酸素流量を原則10L/分以上とする

 患者換気量が大きくリザーバーが虚脱している時には、リザーバーが膨らむまで酸素流量を増加する

リザーバー付マスクの吸入酸素濃度

酸素流量(L/分)

吸入酸素濃度(%)

6

60

7

70

8

80

9

90

10

90~

リザーバーマスクは使用時に伸縮を確認しましょう。伸縮がなければリザーバー機能を果たしていないことになります。リザーバーマスクの伸縮はマスクと顔のフィッテイングが完璧でないと起こりません。しかし、このフィッテイングを持続させることはかなり難しいとされます。リザーバー付マスクがパフォーマンスを発揮しているかを確認するためにはリザーバーの伸縮の確認とマスク表面の一方向弁がポコポコ動いているのを確認します。

マスク表面の一方向弁を取り除く方法についてですが、酸素流量が少ないときにリザーバーを使い果たし十分に吸気を得ることができないときに考慮します。また、一回換気量が極度に大きいときもリザーバーを使い果たしてしまう可能性があり、一方向弁を取り除くことを考慮します。

 

いかがだったでしょうか。次回はさらに酸素療法を知識を深めるために第2回を行います。