第111回 関節痛 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。嘔気・嘔吐について一緒に勉強しました。
本日は、関節痛ついて一緒に勉強していきましょう。
勉強前の問題
① はじめに
【Step 1】 患者の表情いや体型に注目する
【Step 2】 真の関節痛かどうか
【Step 3】 急性発症か、慢性発症か
【Step 4】 関節炎か、関節痛か
【Step 5】 単関節炎か多関節炎か
【Step 6】 関節外症状(前駆症状、随伴症状)はないか
【Step 7】 急性単関節炎では関節液所見が重要
② コラム:リウマチ性多発筋痛症(PMR)
本日は臨床推論の勉強をしたいということで、臨床推論の本をもとに勉強を進めていきたいと考えています。実臨床ではどのように臨床推論を進めていけばいいのか、snap diagnosisだけでなくいろんな鑑別診断を上げながら、診断をしていけるように勉強していきましょう。
第111回 関節痛 ~どのような鑑別診断をあげますか?~
本文内容は主に『外来を愉しむ 攻める問診』を参考に記載しています。この本は系統的に問診から鑑別診断を絞っていく方法が書かれており、わかりやすいです。臨床能力をあげたいと考える先生は是非読んでみてください。
① はじめに
関節痛を生じる疾患で死亡することはありませんが、適切に評価・治療しなければ激しい疼痛や永続的な関節の機能障害を残しうるという点で注意が必要です。
【Step 1】 患者の表情や体型に注目する
患者が待合室から診察室に移動するまでの間にも重要なヒントが隠されています。患者さんの表情や体型を見て、高度の肥満があれば変形性関節症が起こりやすいですし、呼んでからの動き出しの速度や歩行様式などから、関節痛の分布やどのような日常生活の制限を受けているかを推測しましょう。
問診は患者の苦痛が少ない姿勢をとるようにしてから開始しましょう。関節痛の鑑別診断では詳細な病歴聴取により鑑別疾患が狭まり、のちの診察が楽になります。急性の関節痛では関節穿刺を除く検査はあまり当てになりません。正確な病歴聴取が最も大切です。
【Step 2】 真の関節痛かどうか
どのあたりが痛みますかと問いかけ、必ず患者に疼痛部位を指してもらいましょう。患者の訴えが関節痛、関節周囲(滑液包、靭帯、県、筋肉、骨)の痛み、神経痛や放散痛なのかは診断に非常に重要です。真の関節痛では痛みが関節上にあり、疼痛範囲が広く、自動時と他同時の両方で疼痛を認めます。痛みが滑液包、建、靭帯に沿う場合は関節周囲の病変が最も考えられる。関節周囲の問題では疼痛はより限局しており、自動時痛よりも他同時痛が軽度であります。つまり、関節周囲の障害は検者が患者の四肢を支えながら持ち上げると痛みが軽い。また、関節炎では関節可動域の全方向に制限を生じますが、関節周囲の炎症の場合には特定方向のみに可動域制限を生じることが多いです。深部の関節では痛みが限局しないことがあり、膝や大腿部痛の原因が実は股関節病変であってリ、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症であることがあるので注意が必要です。
【Step 3】 急性発症か、慢性発症か
痛みはいつからありますかと尋ね、痛みの増悪が急性である時には外傷、結晶性、感染を考えます。特に突然発症、運動、職業などによる酷使があればまずは外傷性を考えます。痛風や偽痛風といった結晶誘発性関節炎は通常24時間以内に疼痛のピークに達します。化膿性関節炎は数日間に急激に疼痛が進行します。一般には6週間異常持続するものを慢性の関節痛と予備、関節リウマチなどの炎症性他関節炎では緩徐に発症するのがほとんどです。
症状 |
炎症性 |
非炎症性 |
発症経過 |
急性でも慢性でもある 増悪・寛解を繰り返す |
徐々に進行 |
疼痛のタイミング |
運動時痛(特に開始時)に加え安静時痛、夜間痛もある |
運動時(後)に増悪 |
全身症状 |
発熱、体重減少、倦怠感あんどを認めることがある |
なし |
局所症状 |
発赤、熱感、腫脹。圧痛が認められる |
発赤や熱感なし、関節水腫やこつきょくを触れることがある |
こわばり |
30分以上 |
30分以内 |
可動域制限 |
全方向 |
関連ある方向のみ |
【Step 4】 関節炎か、関節痛か
具体的な症状を聞いて、疼痛の原因が炎症によるものか、外傷や変形といった非炎症性のものなのかを鑑別します。
【Step 5】 単関節炎か多関節炎か
関節炎と判断した場合はその分布が重要となります。
急性単関節炎(成人) |
急性多関節炎 |
1,化膿性(細菌性)関節炎 ・非淋菌性 ・淋菌性 2,結晶誘発性関節炎 ・痛風 ・偽痛風 3,外傷性 外傷、過度の運動 4,急性多関節炎の初期 5,その他:ウイルス性、ライム病、脊椎炎、無菌性壊死など |
1,ウイルス性 ・パルボウイルスB19 2,淋菌性関節炎 3,細菌性心内膜炎 RA、SLE、シェーグレン、強皮症、MCTD、血管炎、成人Still病、ベーチェット病、血清反応陰性脊椎関節症(反応性・感染性・腸炎性・強直性脊椎炎)、PMRなど 5,その他:敗血症、リウマチ熱、ライム病、血清病様反応 |
慢性単関節炎・関節痛 |
慢性多関節炎・関節痛 |
炎症性 1,慢性多関節炎の早期 2,結核性関節症 3,某腫瘍症候群 非炎症性 1,変形性関節症 2,無腐性骨壊死、特に大腿骨頭 3,神経原性関節症 4,外傷性 |
炎症性 1,結晶誘発性関節炎 ・偽痛風 ・痛風 RA、SLE、シェーグレン、強皮症、MCTD、血管炎、成人Still病、ベーチェット病、血清反応陰性脊椎関節症(反応性・感染性・腸炎性・強直性脊椎炎)、PMRなど |
【Step 6】 関節外症状(前駆症状、随伴症状)はないか
急性、慢性を問わず多関節炎、多関節痛患者では、関節外症状が診断のヒントになることも多いです。皮膚症状の有無は感染症や膠原病の診断のヒントになることが多いので、皮膚になにかできものはできていませんかと聞き、必ず診察をします。その他の随伴症状として、眼症状、口腔・咽頭症状、呼吸器症状、消化器症状、泌尿器症状、神経症状などの有無についても聴取が必要となります。
【Step 7】 急性単関節炎では関節液所見が重要
問診と診察で急性単関節炎であると判断した場合は、関節液所見が診断に非常に重要となります。正しい手技で行えば安全性は高く明らかに感染している皮膚をさけて穿刺すれば、細菌性関節炎を生じるリスクは1/10,000と少ないです。
項目 |
性状 |
非炎症性関節液 |
炎症性関節液 |
感染性関節液 |
外観 |
無色~淡黄色、透明 |
淡黄色~黄色、透明 |
黄色~黄白色、混濁 |
黄緑色~膿様、混濁 |
粘稠度 |
高い |
高い |
低い |
低い |
細胞数 (個/mm3) |
200以下 |
200~2,000 |
2,000~50,000 |
50,000以上 |
多核白血球 |
25%以下 |
25%以下 |
75%以上 |
通常90%以上 |
主な鑑別診断 |
|
変形性関節症、SLE、外傷、Charcot関節、骨破壊 |
感染(細菌、マイコバクテリア、真菌)、結晶誘発性関節炎 |
② コラム:リウマチ性多発筋痛症(PMR)
発症は,平均 70歳で,50 歳以下はきわめてまれで,症状は,肩甲骨周囲,臀部および頸部の筋肉痛とこわばりが主体で,遠位筋優位の場合,本疾患は否定的です。25%くらいで初期に,軽度の末梢関節炎がみられる.また,全身怠感,発熱,抑うつ症状などがみられます。10%くらいで手,手関節や足に浮腫を認め,腱鞘滑膜炎によるものと考えられます。PMR に特異的検査はなく,CRP や血沈といった炎症反応が高値で,MMP-3 や血清補体価上昇はみられるが,リウマチ因子や抗核抗体は原則陰性で,CK,AST,LD等の筋系酵素の上昇はなく,多発性筋炎でみられる筋把握痛や筋力低下もみられない.MRI や関節エコーで滑膜炎や滑液包炎がみられても,骨びらんはみられません。
治療としては,1 日 5〜15 mg のプレドニゾロン内服で,1 週間以内にすみやかに症状の改善がみられるが,反応性が悪い場合は感染症や悪性腫瘍との鑑別診断が必要となります。投与法としては,朝 1 回投与よりも朝夕分割にしたほうが夜間から明け方の疼痛,こわばりを軽減できる.ステロイドの減量速度は,1 mg/月以下とします。1 年以内でステロイド離脱例は少なく,ステロイド副作用を恐れるあまり離脱を早めると再燃を生じ,以降のステロイド減量がより困難となる場合があり,慎重さを要します。
(日本臨床内科医会会誌 31(5): 643-643, 2017.)
いかがでしたか。次回は『急性下痢』の勉強を行います。