第23回 栄養の管理(食事、エネルギー)について ~栄養士さん任せになってませんか?~

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こんにちはMed-Dis(メディス)と申します。前回は痛みのコントロールについて勉強しました。

med-dis.hatenablog.com

 本日は腫瘍の患者さんにもまた、入院患者酸の管理に置いても重要な食事について勉強していきましょう。

勉強前の問題

    ① 栄養状態の評価について

 ② 食事形態および制限食の選択について

 ③ エネルギー投与量の計算について

 ④ 経腸栄養製剤の特徴について

 ⑤ 経腸栄養の中断について

 ⑥ 静脈栄養について

 ⑦ Refeeding症候群について

 ⑧ 筋トレと栄養について

 

 皆さん、栄養管理についてどれくらい首を突っ込んでいるでしょうか。栄養管理は確かに栄養士さんの専門分野でありおまかせするのは良いことでしょう。ただ、もし栄養管理について正しい知識がなければ栄養士さんの仕事のダブルチェックとしての機能を果たせませんね。今回は栄養について一緒に学んでいきましょう。

 

23回 栄養の管理(食事、エネルギー)について ~栄養士さん任せになってませんか?~

 

以下は『内科レジデントの鉄則(聖路加国際病院内科チーフレジデント編)』をもとに記載しています。病棟管理の教科書はあまりないので、病棟管理について勉強したいけど何を勉強したら良いだろうと思う方は、この本をとっかかりに勉強すると良いと思っています。

 

① 栄養状態の評価について

 主観的包括的栄養評価(ODA)と客観的栄養データの評価(ODA)を用いて評価を行いましょう。

主観的包括的栄養評価(SGA

 栄養評価で最も頻用されているものです。簡単な門信徒身体所見で構成されています。低コストで広く用いられています。下記にHPを記しておきます。

 主観的包括的栄養評価(SGA)  http://www.kumareha.jp/nst/sga.html

 

客観的栄養データ評価(ODA

 SGAで栄養障害があると判定された患者を対象に行います。身体計測、血液・尿検査、身体機能評価、免疫能などの各種検査データを収集し、それに基づいて栄養状態を判定します。

細かな部分については長くなるので以下にHPを示します。

 http://www.med.oita-u.ac.jp/oitaNST/siryo/dai2kai.pdf

 http://tfcnst.s500.xrea.com/?p=394

 

② 食事形態および制限食の選択について

 食事形態は、ゼリー→ペースト→きざみ食→軟食→常食へとアップしていく。

 基礎疾患と制限の内容について以下に記載する。

基礎疾患

制限の内容

糖尿病

糖質制限

糖尿病性腎症

糖質制限、タンパク制限

慢性腎不全

塩分、水分制限

心不全

塩分、水分制限、K、P制限

血液透析患者

塩分、水分制限、K制限なし

腹膜透析患者

タンパク制限

肝性脳症回復期

タンパク制限

膵炎

脂質制限

出血、鉄欠乏性貧血

鉄分13g/日以上

潰瘍、低残渣

低残渣:不溶性食物繊維

 

③ エネルギー投与量の計算について

1 エネルギーの総投与量の計算

A, 基礎代謝量を計算する(Harris-Benedictの式)

 男性 [BEE=66.47+13.75W+5.0H ー 6.76A]

 女性 [BEE=655.1+9.56W+1.85H ー 4.68A]

 W:体重(kg)、H:身長(cm)、A:年齢(年)

  実臨床では簡易法(体重あたり25-35 kcal)で計算することも多いそうです。

 B, 総エネルギー必要量=BEE × activity factor × stress factor

  activity factor

   寝たきり:1.0 、歩行可:1.2、労働:1.4〜1.8

  stress factor

   術後3日間

            軽 度:1.2→ 胆嚢・総胆管切除、乳房切除

            中等度:1.4→ 胃亜全摘、大腸切除

            高 度:1.6→ 胃全摘、胆管切除

            超高度:1.8→ 膵頭十二指腸切除、肝切除、食道切除

 臓器障害 → 1.2+1臓器につき0.2ずつup(4臓器以上は2.0)

 熱傷 → 熱傷範囲10%毎に0.2ずつup(Maxは2.0)

 体温 → 1.0℃上昇→0.2ずつup(37℃:1.2、38℃:1.4、39℃:1.6、40℃以上:1.8)

  https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch4-2/keyword2/

2 総エネルギーに対する③題栄養素の割合を決める

1,タンパク質(4kcal/g)は安定時0.8-1.0 g/kg、ストレス時1.2-2.0 g/kg

 ちなみに筋トレをして筋肉を肥大したいときがちょうど2.0 g/kg程度だそうです。普段は1.0 g/kg程度で良いそうなので、覚えやすいですね。

2, 脂肪(9 kcal/g)は、総投与熱量の20-40%

3, タンパク質、脂肪の残りの栄養は、糖質(4kcal/g)で調節する。目安は総投与熱料の50-60%

NPC/N比の確認

 タンパク質をうまく利用するためには、十分な糖質と脂質が必要です。そのための目安としてNPC/C比が用いられます。

NCP/N比 = タンパク質以外のエネルギー量(kcal)/窒素量

       = 糖質 (g)✕4 (kcal)+脂質(g)✕9 (kcal)/蛋白質(g)✕0.16

 成人では150-200を目安とするが、侵襲時には100前後とするのが望ましい。

4 水分投与量の決定

 体重あたり30~40 mL/日を基準とする。輸液のときと同じ感覚ですね。内科レジデントの鉄則の輸液の項に3:2:1:1ルールがありほぼ同じ値と考えてください。ただし、経腸栄養に関しては1 kcal/ml濃度の経腸栄養剤に水分が約85%含有されています。つまり投与量✕0.8で計算し、残りを飲み物で補うようにしましょう。特に透析の患者などでは水分制限がシビアですので、必ず計算しましょう。

 最低必要量は、尿量500mL/日と不感蒸泄500mL/日から代謝水250mLですのでだいたい750mL/日の水が必要と考えておきましょう。

電解質投与量の計算

 1日必要量はおおむねNa 2 mEq/kg, K 1 mEq, Cl 80-100 mEq, Ca 4.6-9.2 mEq, Mg 8.1-12.1 mEq, P 12-20 mEqくらいが目安だそうです。またまた、輸液のときと同じ電解質の量でOKみたいです。

6,ビタミン・微量元素の投与量の決定

 経口摂取不足があるとビタミンB1が最も早く欠乏します。その他詳細については本誌を御覧ください。

 

④ 経腸栄養製剤の特徴について

・半消化態、通常型

 通常の製剤は1 kcal/mlを基準に作られています。半消化態では便の少なくなり、便性は軟便傾向になります。また、ナトリウム含有量が低く抑えられていることが多く、低ナトリウム血症に注意が必要です。

・濃厚型

 1.5 kcal/mLと濃縮されており、成分は通常型とほぼ同様で、水分を制限したい場合に選択します。濃厚ですので浸透圧が高く、下痢に注意が必要となります。

・成分栄養、消化態

 成分栄養や消化態は消化酵素を必要とせず、消化液の分泌刺激を抑え下痢に配慮した栄養製剤です。成分栄養は浸透圧が高く、下痢の原因となることがあります。低濃度(0.8 kcal/mL)、等濃度(1 kcal/mL)、高濃度(1.5 kcal/mL)と複数の種類があり、低濃度ほど消化管に負担が少なくなります。しかし、不自然な栄養素製であり、長期間使用すると代謝障害を来す恐れがあるためあくまでも一時的な使用を心がけましょう。

その他にも、耐糖能異常用製剤、免疫調整型製剤、タンパク制限型製剤、脂肪強化型製剤があります。

(レジデントノート VoL.18 NO.10(10月号)2016, p1905-)

 

⑤ 経腸栄養の中断について

 経腸栄養注入において、その後廃液が帰ってしまうことがよくあります。その場合の対処方法として、以下の3つの方法を試してみましょう。

1,胃管をやめて十二指腸チューブに変更

2,投与速度を低下させ、持続投与を検討する

3,腸蠕動促進薬を投与する

パンテノール(パントール)500~1000 mg(メインの点滴に混注、または胃管よりパントシン散の投与)

 パンテノールは体内でパントテン酸からアセチルCoAに代謝され,アセチルコリンの生成を促します。その結果,胃から十二指腸への排出を促進します。

・メトクロプラミド(プリンペラン)(10mg)1A 静脈注射

 嘔気時の頓用薬としてよく使い慣れている薬です。抗ドパミン作用により消化管の蠕動促進作用を有しており,胃から十二指腸への排出を促進します。

・ジノプロスト(プロスタルモン)1000mcg+生理食塩水100mL

 かなり強力に腸蠕動を促進させる.あまりにも強力なので患者さんは腹痛を訴えたりとコンプライアンスが悪い場合もある.子宮収縮作用があるため妊婦には禁忌です。

・大建丁丁(ダイゲンチュウトウ)1回5g 1日3回 食前or食間

 腹痛や膨満感を和らげ、体を温めて胃腸の調子をよくします。消化管術後の腸閉塞の予防で用いられ、消化器外科領域では第一選択にも成り得ます。肝機能障害の副作用があります。

・エリスロマイシン250mg+生理食塩水50 mL(1時間以上かけて点滴)1日4回

 エリスロマイシンは消化管蠕動ホルモンのモチリンと呼ばれる物質のアゴニストであることが発見されています(レジデントノート Vol.13 No.4(6月号)2011, p736-)

 

⑥ 静脈栄養について

 静脈栄養は、末梢静脈栄養(PPN)と中心静脈栄養(TPN)に分けられる。みなさんも御存知の通り、投与製剤の浸透圧が高いと血管障害を起こしてしまうため使用できません。ですので、末梢からの栄養ではアミノ酸製剤や脂肪製剤を利用してせいぜい1000 kcal程度しか入らないため、長期管理は難しいと考えられます。1週間を目安に最大2週間まで絶食が続きそうな場合は迷わず中心静脈栄養を考慮しましょう。

TPNの場合

 必要栄養量の計算を前回の式で行います。必要蛋白質、脂質、炭水化物の量を決定します。NPC/N比を計算し、150前後になるように調整します。水分投与量を計算します。

 これらの計算ができたら、高濃度ブドウ糖液、イントラリポスなど脂肪製剤、アミパ連などのアミノ酸製剤、ビタジェクトなどのビタミン製剤、微量元素製剤、電解質製剤を組み合わせて調整します。

 また、計算量とおおむね同じであれば、既成製剤である、エルネオパ、フルカリック、ハイカリックRFなどを用いて良いと思います。

 投与速度は注意してください。長期絶食や低栄養がなければ1週間程度で目標投与量にあげていきます。

 

⑦ Refeeding症候群について

 長期飢餓によるマルアスムスの状態では必要エネルギーの大部分が脂肪酸の分解によってまかなわれ、グルコース代謝は最低限に保たれています。食事を取ることによりグルコースが大量流入することで細胞内に取り込まれるグルコースとともにK、P、Mgも一緒に取り込まれてしまいます。そのため低P、低K、低Mg血症、うっ血性心不全不整脈、耐糖能異常、ウェルニッケ脳症などの症状が生じます。特に低P血症は意識障害や心停止を起こすため注意が必要です。Refeeding症候群を疑ったらすぐに血液検査を行い電解質を調べましょう。特にPやMgはルーチンで測定することがないと思いますので注意が必要です。

 リスクとして、神経性食思不振症・高齢・クワシオルコル・マラスムス・担癌患者・手術後・消化管異常・アルコール依存患者・慢性肝障害・ホームレス・妊娠悪阻の患者などがあります。

 Refeeding症候群の予防として、カロリーは必要量の1/4から始める。だいたい500-600kcal/日から始めると良いと思います。(もしくは10 kcal/kgからはじめて1週間)前後で目標値にもっていくようにします。体重、飲水量、尿量、血糖、電解質(K,P、Mg)を3-7日間連日でチェックするようにしましょう。

 

⑧ 筋トレと栄養について(休憩)

 インターネットで調べただけなので、楽しんで読んでください。もちろんエビデンスは、、、です。蛋白質の摂取量はアスリートで1.08/kg/dayの蛋白質を摂取すれば十分とのこと。高強度のレジスタンストレーニングを行っているアスリートは蛋白質の必要摂取量は1.4-1.7 g/kg/dayとのこと。それ以上の蛋白質の摂取はリスクもある。蛋白質と糖質を同時接種することで破壊された筋肉を回復するのを手助けしてくれるのだそう。また蛋白質を取るならホエイプロテインがおすすめみたいです。レジスタンストレーニング後に急速に蛋白質および炭水化物を摂取することでインスリン分泌を促し蛋白合成が促進されるのだそうです。筋トレの科学的ですね。

 

いかがだったでしょうか。栄養管理の方法は理解できたでしょうか。少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。次回は、入院患者の病棟管理ということで睡眠に関して勉強したいと思っています。